緯度からすると北海道くらいのところに位置するフランスのパリだが、花の暦は北海道のそれよりもずいぶんと早い。例年よりも厳しかったと皆が口々に言う冬もどうやらようやく終わり、今まさに花の季節を迎えている。
パリで毎年、注目を集める紅白2本の桜
水仙、レンギョウなどの黄色い花の後は、白とピンクの彩り。桜の花も満開になった。
ちなみにフランスには、日本のような花見の習慣はない。また、日本人にとって桜は特別な花だが、そういった思い入れもフランス人にはない。
つまりここでの桜は、リンゴや梅や桃やナシと同じようなレベルのものなのである。
とはいえ、パリで毎年、ひときわ注目を集める桜というのがある。それは、「ジャルダン・デ・プラント(植物園)」に植えられている白と紅の2本の桜。花の頃ともなれば、この木の周りにはまるで吸い寄せられるように人が集まり、しばらくその美しさに見とれる。
とりわけ白い方の桜は、見事としか表現のしようがない。臥竜梅というのを日本で何度か目にしたことがあるが、それを思い起こさせる地を這うような枝ぶりに、無数の花房をまとわせている。
この威容には、桜に格段の思い入れがあるわけではない国の人々も、また遠来の旅人たちも、つまり人種や国籍とかかわりなく、すべての人が惹きつけられてしまう。
花の時期、この木は頑丈なバリケードでガードされ、枝の下にもぐりこむことは残念ながらできないのだが、実はその根元には、植物名が記された小さなプレートが添えられている。
「日本の桜 “shirotae”」
このプレートを見て少なからず心を動かされる日本人は、私ひとりではないだろう。異国の土地で出会う日本の桜。アルファベットの表記に「白妙」という漢字2文字を重ね合わせつつ、なにかしみじみとした思いにひたりながら、その場からしばらく動けなくなる。