「看護師」が行える医療行為の範囲をもっと拡大しようという動きがあります。

 3月19日、厚生労働省の「チーム医療の推進に関する検討会」は、「特定看護師」創設の内容を盛り込んだ報告書を取りまとめました。これを受けて、3月26日に官邸の構造改革特別区域推進本部も「特定看護師の法制化」を提言しました。

 「特定看護師」とは、傷口の縫合や気管内挿管などの医師業務の一部を肩代わりする看護師のことです。厚生労働省は、特定看護師の創設によって、「医師の負担を軽減し、医療の質の向上につながる」と説明しています。海外で「診療看護師(NP: ナースプラクティショナー)」が既に活躍していることも、その根拠の1つです。

 しかし、この新たな資格の創設に対して、日本医師会は「そもそも国民は看護師に切開や縫合などの医療行為をしてほしいと本当に望んでいるのか」と、「日医のすべてをかけて反対」しています。4月1日に日本医師会の新会長となった原中勝征氏も、記者会見で「担当者と大至急話し合い、阻止したい」とコメントしています。

 医師会は、なぜこれほど強硬に反対するのでしょうか。医師の権限、利権を奪われるから反対しているのでしょうか。決してそんな理由ではありません。今回は、特定看護師の創設にどのような問題があるのかを考えてみたいと思います。

「安全と質」は十分に確保されるのか

 特定看護師の業務には、次のようなものが挙げられています。

 「投薬の変更や中止」「手術前後の人工呼吸器の管理」「在宅患者の床ずれの処置」「重症度や治療効果判定のための検査(血液検査やレントゲン/CT=コンピューター断層撮影法=/MRI=磁気共鳴画像=などのオーダー)」「超音波検査、エックス線、CT、MRIの読影」「傷口の縫合」などです。

 これらの行為を、5年以上の臨床経験を持つ看護師が2年の教育課程を受講すれば施行可能になる、というのが今回の制度です。

 医師が行ってきたこれらの業務を看護師が行うことができるようになれば、医師の負担が軽減されることは間違いないでしょう。

 しかし、治療と処方にかかわる最終決定は、高度な医学的知識および技術を保持する医師が行うべきだと、私は思います。そもそも看護師の教育課程は、処置したり、投薬することを前提とした医学教育ではありません。医療の「安全と質」が十分に担保されているとは言い難いのです。

 メリットとしては、医師の仕事を看護師が行うようになれば、人件費(医療費)の削減が期待できるということでしょう。でも、その場合は、看護師の待遇を基本的に今まで通りにすることが前提になります。待遇が変わらないのに医師と同じハイリスクを背負わせるのは、看護師にとってひどい話ではないでしょうか。