バラク・オバマ氏が黒人初の大統領に就任して以来、「ポスト・レイス」(2009年6月の記事「米国に台頭する『新民族』」参照)の時代に突入したとされている。黒人が国の長になったことで、事実上差別の時代が終わり、新しい局面に入ったという論調をよく耳にするようになった。

 「差別の時代が終わった」と断言するにはまだ早すぎる。しかし、オバマ大統領の出現でポスト・レイスの時代の幕が開いたことは間違いないだろう。黒人団体から見れば、長年の夢であった黒人大統領が実現してしまった今、これから何を目指して活動すればいいのか、具体的なゴールを見失ってしまった状態だ。

 そこで、黒人支援団体である「全米都市連盟」(NUL)は、やや苦し紛れに新しいスローガンを作り、黒人の団結を守ろうとしている。

 それは「自力でやり遂げる(I am empowered)」運動と名付けられ、全米の黒人たちに2025年までに4つのことをやり遂げるように呼びかけている。

 「すべての子供が大学に進学する」「生活するに足る収入を確保する」「質のよい健康保険に入る」「安全な家に住む」の4つである。

 これらを一人ひとりの黒人が心がけることで、全体の社会的、経済的地位向上に結びつくということだ。

 一方では大統領を出しながら、ずいぶんと基本的な目標ばかりだという印象を受けるが、これがまさに黒人社会が直面する「二極化」問題の表れなのだ。

黒人グループの「穏健派」と「過激派」の対立

 米国の貧困層に黒人が多いことは周知の事実である。同時にNULのリポートは今、中流階級に属する黒人の数が、史上最も多いことを伝えている。

 この黒人社会内の「格差」が、大統領を巡る対立を生んでいる。

 NULの最高責任者であるマーク・モリアル氏は、元ニューオーリンズの市長で政界の実力者である。

 モリアル氏は、オバマ大統領就任直後から「黒人を助けるような政策を増やしてほしい」と訴えかけていた。公の場ではっきりとは言わないが、「黒人の大統領なのだから、黒人問題に熱心になるのは当然のはず」というニュアンスが含まれている。