5.結言――日本への影響
これまで、日本は米国にとってかけがえのない戦略基盤であった。その理由は(1)(冷戦時代)極東ソ連軍の封じ込めの拠点、(2)インド洋や中東までも展開する米軍の基地機能の提供、(3)財政的な支援など。
しかし、今日経済的に疲弊しつつある日本は、将来、財政面でそれほど大きな貢献をすることは期待できなくなりつつある。米国は、日本はもはや「金の卵」を産まなくなるだろうと思っているに違いない。
しかも、中国との距離が近すぎて、在日米軍基地は徐々に中国の弾道ミサイルなどの脅威にさらされることになるだろう。さらに、自民党政権に比べれば、民主党政権は御し難い。
近い将来米国は日本の戦略的価値を「要石」などと持ち上げなくなるだろう。その帰結として、次の通りのシナリオが考えられる。
第1のシナリオ:米国は、日米安保を維持するものの、その信頼性は空洞化する。
第2のシナリオ:米国は、一方的に日米安保を破棄する。
第3のシナリオ:米国は、日米安保条約を双務条約に改定することを迫る。
戦後、60年以上にわたり、我が国の平和と繁栄の基盤になってきた、日米安保体制が今重大な岐路に差しかかっていることを銘記すべきだろう。日本は、戦後レジームのコペルニクス的な転換の時期を迎えるかもしれない。
なお、日本政府にとって喫緊の課題である海兵隊を普天間からグアムに移す計画について米国政府は、上記のような思惑から、白紙に戻し、新たな再配置の全体計画(ニュートランスフォーメーション)を策定した後に、在日米軍の再配置を改めて決めるのではないかと思われる。
10月25日、野田佳彦総理と会談したレオン・E・パネッタ国防長官は、これまで通り、辺野古への移設を主張した。これは、「そもそも移設の可能性が低いことを見越して、日本政府に貸しを作る思惑」と見るべきかもしれない。
半世紀以上続いた戦後レジームをどのように変えればよいのだろうか。日本国民は、生存(安全保障)と繁栄の道――生き残りの道――について、真剣な議論をしなければならない重大な時期にあるものと思う。