トヨタ自動車は、延べ800万台の大規模リコールの震源地米国で、半世紀かけて築いた信頼を失いかけている。「品質のトヨタ」の看板の裏で欠陥隠しが横行していたのではないかという疑心暗鬼が広がっているのに、説明責任をいまだに果たせていないからだ。
米国では、クライスラーが2009年4月に経営破綻し、6月には世界最大手のゼネラル・モーターズ(GM)が後を追った。米産業界を牽引してきた「ビッグスリー(3大自動車メーカー)」はもはや死語。米国勢の窮状を尻目にトヨタは同年、米国の個人向け乗用車の新車販売台数でGMから首位を奪った。
衰退の憂き目に遭う米自動車業界が敵失を見逃すはずはない。メディアや議会が繰り出す激しいトヨタ批判は、日本車の対米輸出攻勢によって起きた1980年代の日米貿易摩擦を彷彿させる。確かに、保護主義的なノリがエスカレートしていることは否定できない。
しかし、トヨタは全米に9つの生産会社と1200店規模のディーラー網を有する。17万人を超える従業員には家族もいる。「日本車だと意識して買いに来るお客さんはほとんどいない」(米販売店社長)ほど、すっかり米市場に浸透している。それだけに、勢いを増すトヨタ攻撃の理由を、外国企業排斥の動きだと決めつけることはできない。
「欠陥ではない」との抗弁は通用せず
リコール騒動の直接的な引き金はとなったのは、2009年8月、カリフォルニア州サンディエゴのハイウェイで、高級車「レクサスES350」が道路脇の柵を破って大破、炎上した事故だ。乗っていた家族4人全員が死亡した。運転席のフロアマットがアクセルペダルに引っ掛かり、時速約190キロに加速、制御不能に陥ったと推測されている。
すべてのトヨタ車購入者が純正品のマットを使うとは限らない。販売店が無料で支給した別のマットを重ねて使用するケースもある。このため、トヨタ側は車体の欠陥が事故原因ではないと主張し、リコールを回避する構えだった。
しかし、ロサンゼルス・タイムズを中心とする米メディアはトヨタの責任を追及。トヨタは事故翌月の9月、顧客に注意を促す文書を送付し、11月にはマット交換とアクセルペダルの形状修正を無償実施するリコールに追い込まれた。
対象車は「レクサス」や「カムリ」など米国で販売された8車種計426万台。米国最大規模のリコールゆえに派手に報道されたが、安全対策を優先したトヨタへの評価も一部にあり、年末までにリコール問題は沈静化したかに見えた。
米当局、自己防衛目的の態度硬化
ところが、2010年1月21日、雰囲気が一変する。トヨタが、米国で製造・販売した小型スポーツ用多目的車(SUV)の「RAV4」や「カローラ」など8車種約230万台について、アクセルペダルに構造上の欠陥があることを発表したからだ。
ペダル内部の部品が結露すると、ペダルが元の場所に戻らなかったり、戻るのに時間がかかったりして事故につながる恐れがあると説明。この不具合は、フロアマット問題のリコール対象車のうち170万台と重複することも判明した。