「見えない影は『まだ見えない』のか、それとも『本当は存在しない』のか。誰にも分からないから怖いんだ。我々はリーマン・ブラザーズの亡霊を恐れているのかもしれない」──。米ヘッジファンドの運用担当者は、ギリシャの財政危機に始まった信用不安の不気味さを打ち明ける。
投資家の疑心暗鬼を反映するかのように、米株価指標のダウ平均は4月26日の取引時間中に年初来高値(1万1258.01ドル)を付けた後は騰勢を失い、2カ月近く経った現在でも、1万ドルを挟んで、のたうつような値動きが続いている。
「見えない影」とは、欧州金融機関などが抱える公債絡みの損失だ。ギリシャ、スペイン、ポルトガルなどソブリンリスクを指摘されるユーロ圏諸国の国債を、どこが、どのぐらい保有しているのか。実態が分からないことが、余計に市場の不安心理をかきたてている。
英金融大手バークレイズ・キャピタルの推計では、ユーロ圏政府が発行した債務証券の保有比率は、銀行が25%、リテール部門(投資信託と個人)が25%、保険会社(年金基金を含む)が20%、ユーロ域外が20~25%になるという。
ユーロ域外の投資家が保有しているものの約半分は高格付けのドイツとフランスの債務。約2割はイタリアとスペインの発行分。ギリシャやポルトガルなど、それ以外のユーロ圏諸国分は10~15%とみられている。
この推計によれば、信用力が劣る国債はユーロ圏内に集中して滞留していることになる。一部のユーロ採用国が債務不履行に陥った場合、損失処理は可能なのか。突然襲う信用収縮と連鎖破綻の恐怖。リーマン・ショックで金融システムの脆弱さを知ってしまった市場が身構えるのは当然だ。
リスク商品と化した欧州単一通貨
かてて加えて、欧州金融機関の情報開示が不十分であるとの認識が恐怖心理に拍車を掛けている。国ごとに異なる金融監督基準への不信感が強い上、ドイツの州立銀行など公営金融機関の経営健全性に関しては、財務諸表を額面通りに受け取る米市場関係者は皆無だろう。