4年前の総選挙敗北、下野したペーション前首相〔AFPBB News〕
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とはいえ、近年は社民党の勢いに陰りが見え始めていた。2002年の総選挙では、辛うじて政権を維持。だが、前回の2006年選挙では、得票率で2%足らずという僅差で敗北を喫した。「雇用の回復」を公約に掲げた穏健党が大躍進し、史上最年少41歳のラインフェルト首相が誕生した。
4年前、歴史的なデッドヒートとなったテレビの開票中継を、筆者は手に汗握りながら見ていた。真夜中近く、ようやく大勢が判明すると、当時の首相で社民党のペーション党首が敗北宣言を行った。
まさか社民党が政権の座から滑り落ちことはなかろう――。筆者はそう考え、年金生活者党というミニ政党に1票を投じていた。外国人参政権を認めるこの国の暮らしやすさや、大学院までタダで行かせてもらったことに感動すら覚えていたから、筆者は当時の社民党政権の熱烈なシンパ。だから、社民党に投票しなかった自分を責めずにはいられなかった。
穏健党、社民党政策を丸呑みで政権奪取
翌日、世界のメディアは「スウェーデンで12年ぶりに政権交代」「(社民党は)歴史的な大敗」と書き立てた。スウェーデン史の一大転換期を目撃することになるのかと思ったが、実際にはスウェーデン国民が社民党の構築した「福祉国家」路線を放棄したわけではなかった。
ラインフェルト首相が率いる穏健党は保守主義を揚げ、新自由主義や自由市場を擁護する政党である。誤解を恐れずに言えば、日本の自民党にかなり近い。
しかし、2006年の選挙で保守党はキャンペーンパンフレットで「スウェーデンの新しい労働党」を堂々と名乗り、それまでの路線の変更を鮮明にした。
保守党のお題目であった「大幅な減税」や「福祉の削減、再分配の切り下げ」政策を放棄。代わりに「労働者と低所得者の友」として、雇用政策や医療、教育の拡充を公約し、社民党も顔負けの高福祉・高負担政策を大々的に打ち出していたのだ。
右派の穏健党でさえ結局、高福祉・高負担のスウェーデン・モデルを継承せざるを得ない。そうしなければ広範な国民の支持を得られず、政権を担うことができないのだ。
ただ、「チェンジ!」を揚げた米国民主党や「ニューレイバー」で政権を取った英国労働党と決定的に違うのは、政権を担う与党が「左傾化」しているという点にある。つまり新自由主義路線を捨て、「左旋回」の上で世論の支持を得ているのだ。「高福祉・高負担」「福祉大国」という路線を基本的に堅持していく政策は、国民総体の明確なコンセンサスだと言えるだろう。