港区麻布、閑静な住宅街の一角。低層商業ビルの一室に知る人ぞ知るバーがある。希少価値の高いシャンパンのみを提供する店で、ワンショット1万円は当たり前、ボトルごと注文すると目玉が飛び出るような値段となる。このバーには、若手の実業家や弁護士、経営コンサルタントが夜な夜な集い、豪華な宴が繰り広げられた。
常連客の中には、近所の超豪華マンションに住む著名な元経営者の姿も。ここ数年、経済誌や一般雑誌などに頻繁に露出してきた若手セレブの隠れ家的なバーとしても知られる。しかし、最近は客足が落ち始めているという。周辺を取材すると、近年盛り上がった「セレブ」たちのビジネスが急激にしぼみ始めた姿が浮かび上がってきた。
若手経営者が引き起こした「セレブバブル」
若手セレブのビジネスが活発化したのは今から7~8年前。2000年のITバブル崩壊後、飲食や流通、あるいはファッションなど様々な業種でベンチャーブームが勃興した。こうした若手経営者のもとには、デフレ下の融資先開拓の一環として多額の銀行融資が集まった。このほか、頭角を現した若手ビジネスパーソンの中からは、ジャスダックや東証マザーズなど新興企業向け市場に株式上場を果たす面々が相次いだ。
80年代バブルを主導した団塊世代と違い、若手ビジネスパーソンたちは旧弊を打破し、自らの才覚で販路を拡大する者が多かった。こうした若手経営者の多くは、団塊世代の成金的ライフスタイルを嫌い、モード感覚に富んでいたことも特徴の1つ。トレーナー付きの高額スポーツクラブにエステ、センスの良いレストラン等々を積極利用。一般サラリーマンやOLたちの羨望の眼差しを集めたことが「セレブ」と呼ばれる由縁だ。
彼らの旺盛な業容拡大や消費欲を当て込み、周辺に弁護士やコンサルタントなど有象無象が集まったのがセレブを軸に展開されたビジネス、称して「セレブビジネス」だ。セレクトショップで1着数十万円のスーツが飛ぶように売れ、1本数百万円の腕時計、1台数千万円の高級外車がポンポン売れたのは、セレブバブルにほかならないと筆者は見ている。
だが「ここ1~2年で若手たちが創業したビジネスが変質し始めた」(大手銀行筋)との声がささやかれている。「飽きっぽい若者相手の薄利多売を本業とする企業が多く、すでに二番手に抜かれたか、大企業にビジネスをコピーされ、収益ガタ落ちの企業も少なくない」(同)。本業に影がさし始めた新興企業の中には、「上場後の株価を維持するため、本業そっちのけで錬金術にはまる経営者が続出した」(金融筋)。