現在、アメリカの国債を最も多く保有している国は中国である。中国人民銀行(中央銀行)は3兆2000億ドル以上の外貨準備を保有しており、その運用に困っているほどだ。中国の指導者は海外を訪問する際の行く先々で、経済援助や投資の拡大などを表明する。

 このような中国を「途上国」と呼ぶのは、もはや妥当ではない。なにしろ2010年に中国は世界で2番目の経済大国になったのである。

 だが、中国は本当に世界的な金持ちの国になったのだろうか。その答えはイエスとノーの両方である。

 まず、国としては確かに金持ちになった。政府が動員できる財源で言えば、中国は一番であろう。2009年にはリーマン・ショックの影響もあり、「全国人民代表大会(全人代)」(国会に相当)の承認を得ずに、胡錦濤国家主席はG20に参加する際の訪米時に、突如4兆元の財政投資を発表した。中国政府は財源的に余裕があると同時に、共産党一党独裁の体制だからこそ自由に予算を決めることができる。

 一方、国民1人当たりGDPはまだ5000ドル未満である。国民の平均所得を見れば、中国はいまなお「発展途上国」である。

 無論、中国は格差の大きい社会である。勝ち組である共産党幹部と企業経営者は、底辺の低所得層と比べれば、平均して数十倍もの年収を得ている。

 アメリカでは、格差の拡大に怒る若者たちがウォール街を占領するデモを展開しているが、中国では、反政府デモは事実上認められていない。格差が拡大しているが、反対意見が抑えられ、表向きは中国社会は「和諧」(調和が取れている)のように見える。

国民の信頼を失いつつある温家宝首相

 数年前までは、中国国内で温家宝首相は「親民総理」と言われていた。特に、四川省大地震が起きたあと、温首相はいち早く被災地に出向き、両親を失った孤児の手を取って涙ぐんで「頑張って生きていこう」と声をかけた。このことを中国のメディアが大きく報道し、それを見た中国人のほとんどが感動した。

 しかし、その後、温首相を巡る論調は一変した。温首相はいろいろなところでいいことを述べるが、ほとんど実行していないからだ。