(前回の内容)

 自分の認知している過去が、自分の過去だとすれば、その認知が変わることによって自分の過去も変えられる。自分の過去が変われば、未来も劇的に変わる可能性がある。前回は、そうした内容を白金台内観研修所の本山陽一所長に聞いた。今回はその続きをお送りする。

――集中内観における1日は、どのような生活ですか?

本山 朝の5時に起きて夜9時に寝ます。早寝早起き。食事は3回、間食は30分。部屋の隅を屏風で囲い、その中に楽な姿勢で座り、「してもらったこと」「して返したこと」「迷惑をかけたこと」を時系列的にひたすら調べ続けます。

 面接者は1時間に1回程度訪問して、思い出した事実を聞きます。トイレや入浴以外は席を立ちません。テレビや新聞や雑誌などは厳禁で、一切の雑音を遮断します。

――携帯電話も?

本山 当然です。刺激があると、人それぞれの反応をしてしまい、自己観察が難しくなるのです。機械でも点検をする時はいったん止めます。動かしながら点検はできません。人間もいったん全部止めてゼロに戻して、自分を客観的にみる作業をします。

――かなり辛いでしょう?

本山 最初はそうです。仕事のことやその他のことが気になって雑念が多いですが、3日ほど経つとそれらが消え去り、自分に向き合えるようになっていきます。だから、1週間という時間をかけるのです。そういう意味では、最初の3日ほどは練習です。

――いろんな人がいて、なかなか内観に入っていけないケースもあると思いますが。

本山 個人差はあります。でも全然気にしなくて構いません。焦らない。1週間もあればみんなできるようになりますから。時間があるということが大事です。煮物も強火は表面だけを焦がしますが、弱火でコトコト長時間煮込むと芯まで火が通るのと同じです。

懐かしい記憶

――集中し始めると、次々と思い出すわけですか?

本山 そうです。一通り終わったらまた最初から繰り返し調べます。そうすると、最初の頃思い出せなかったことが不思議なくらいにどんどん思い出します。すべてのことは脳に記憶されているのですが、それを思い出せないだけなのです。

 人によっては、幼い頃の母親の匂いや服、胸に抱かれた感触など、実に細かい様々なことを思い出します。