鳩山由紀夫首相の迷走発言にメディアが振り回されている。鳩山はあらゆる選択肢と可能性を提示するから、真意を把握するのが難しい。首相側近でさえも真意をつかめない。結果として、メディアの誤報も相次いでいる。鳩山自身が何をしたいのか、すべきなのか、頭の中で整理がつかないまま喋っているのではないか――。筆者にはそう思えてならない。
軽過ぎる首相発言は「ベタ記事」扱いで十分、今後まともに取り上げる必要はないとさえ考え始めている。かつて相手を煙に巻く元首相・竹下登の発言は「言語明瞭、意味不明」と言われたが、鳩山の場合は「言語多量、意味不明かつ報道不要」と思うことが多い。もっとも、首相発言はなかなか無視できないのが、報道機関の政治部デスクにはつらいところである。(敬称略)
国債発行44兆円、朝刊「断念」→夕刊「数値目標」
政府が2010年度予算編成で、新規国債発行額を44兆円以下に抑える数値目標を予算編成方針に盛り込むか否か――。
2009年12月11日付の各紙朝刊は「国債44兆円内断念――政府 予算方針数値盛らず」(読売)、「国債44兆円以下を撤回 発行上限、明記見送りへ」(日経)などと一斉に報じた。
しかし、首相は同日午前、各紙報道を否定。その日の夕刊で、各紙は「首相が国債数値目標指示」(読売)、「首相『44兆円断念ではない』」(朝日)などと伝え、結果として朝刊は「誤報」となった。
誤報とは認めたくないのか、11日付朝刊で「国債44兆円枠断念 政府 基本方針上限示さず」と打っていた東京新聞は、同日付夕刊で「44兆円枠『努力目標に』 首相一転、明記を指示」と修正した。記事の中には、「政府方針が一夜でひっくり返った形だ」と苦しい釈明が盛り込まれていた。日経も夕刊では「国債44兆円は努力目標」とした。
官房長官がミスリード、醜態さらした新聞各紙
なぜ、新聞各紙が軒並みこのような誤報を出し、醜態をさらしたのか。それは、首相側近中の側近、官房長官の平野博文ですら首相の「真意」をつかみそこね、12月10日午後の記者会見でメディアをミスリードしたのが大きな要因である。
平野は円高・株安を招いた「ドバイ・ショック」に言及し、「いろいろな情勢変化がある」と指摘。その上で、「44兆円ありきで縛られて、一切、国民生活の実態に対応できない予算では、少し違うと思う」と発言した。
これでピンと来なければ、新聞記者じゃない。もし、政府が「44兆円枠」を堅持している中で、政府高官がこのように発言すれば、政府方針の変更示唆と受け止めるのは当然の反応だ。事実、各社とも平野発言は「44兆円の上限は設定しない」「44兆円には固執しない」と受け止めた。