債券相場は、「振り出しに戻った」感が強い。10~11月の相場調整がスタートしたと考えられる10月9日は、10年債利回りが1.275~1.285%、5年債利回りが0.595~0.610%、先物が139.06~139.29円のレンジだった。これに対し、堅調に推移した11月17日は、10年債利回りが1.300~1.310%、5年債利回りが0.580~0.590%、先物が139.11~139.28円のレンジ。10年債利回りの低下がやや不足しているものの、元の位置にほぼ戻ったと言えよう。海外勢が先導する形で「悪い金利上昇」に動いた局面は、早いタイミングで終息した。ファンダメンタルズおよび金融政策の見通しをベースにした長期金利低下余地模索局面への回帰が、これから予想される流れである。

 1.3%を割り込んでの長期金利低下が持続的でしっかりした流れになるためには、[1]景気指標の明確な悪化が印象付けられて「二番底」懸念が強まるという急速コース、[2]デフレ深刻化と日米超低金利政策長期化観測の強まりが一段と浸透してくることによる「漢方薬」コース、のいずれかもしくは双方の組み合わせになるものと考えられる。これらに加えて、財政規律に関する不透明感がしっかり払拭されることが望まれてくる。むろん、国債過剰供給や財政規律に焦点をあてた「悪い金利上昇」が長続きしないことを、市場参加者は10~11月の動きからあらためて実感しているため、これと同じようなマグニチュードの債券相場の調整は、年度内は予想されない。だが、おそらく2010年度国債発行計画および2009年度国債発行計画改定の概要が判明するとみられる12月中旬までは、財政面での悪材料を警戒する空気が市場に残ることになる。

 16日夕刻に開かれた基本政策閣僚委員会は、追加経済対策の柱である2009年度2次補正予算の規模について、結論を持ち越した。この問題では閣僚間に、明確な温度差がある。

 (1)亀井静香金融・郵政改革担当相(国民新党代表)は、2次補正について、「10兆円以上」が必要だという主張を展開してきた。15日午後の那覇市内での講演で、「財源はいくらでもある。今のように3兆円に頭を抑えてやるという考え方は間違いだ」「基本政策閣僚委員会でオーケーしないと閣議に上げてはいけない。わたしがノーと言えばできない」と指摘(11月16日 時事)。16日の同委員会では「額なんて決めるな。必要なものは措置すべきだ」「財務省の役人は石頭。彼らの言う財源論にとらわれると、国民が大変なことになる」と強調した(11月17日 毎日新聞)。

 (2)菅直人副総理・国家戦略・経済財政相は、1次補正の一部執行停止で捻出した2.9兆円の大半である2.7兆円を上限に、悪い雇用情勢や「デフレ的な状況」に対応して、雇用や環境、景気下支えを柱にした経済対策を打つべきだという主張を展開してきた。この線に沿って、金額は明示せずに、17日の閣議で「予算重点指針」が了承された。即効性の高い施策として、エコポイントなどの期限延長のほか、「エコ住宅ポイント(仮称)」がアイデアとして浮上。菅副総理は17日の会見で、「何としても二番底にならないように景気を効果的に刺激し、引き上げていく」と述べた。

 (3)藤井裕久財務相は、2009年度2次補正に計上される施策は、基本的に2010年度予算に計上するはずだったものの前倒しであり、歳出が純増になることは回避すべきという立場である。16日の閣僚委員会終了後、「国債増発を避けなければならないというのは基本的姿勢だ」と語った(11月17日 毎日新聞)。財務省幹部は「国債発行額44兆円以下という旗は死守するということだ」としている(11月14日 東京新聞)。ただし、13日の記者会見で菅副総理は、2009年度2次補正分を2010年度予算から削るという考え方について「財務省から何も言ってきていない」と述べていた(同)。

 最終決定権者である鳩山由紀夫首相は、11月14日にシンガポールで同行記者団と懇談。「特に雇用情勢が相当厳しいと思う。補正予算をやはり相当、組まなくてはいけない状況になるのではないか」「残り3カ月という話であれば、15カ月予算みたいな話になってくる。3カ月で使い切るという話なら、そんなに大きな額にならないと思う」「せっかくみんなが努力して財源を出したわけだから、(2009年度1次補正見直しで)歳出カットした部分を、経済が厳しいという状況であれば、生活を考えれば(2次補正財源への転用は)あり得べき話だ」と発言。同時に、「国債発行は44兆円に抑えたいとずっと言っている。極力果たさなければいけない目標と思っている」「財政規律というものも、きちっと見ておかないといけない、守らなくてはいけないとの思いだ」と述べた。前記(2)の考え方に近い発言であり、(3)の考え方は、明らかに旗色が悪い。