ソニーのAIBOやホンダのASIMOが登場して話題をさらったのは1999~2000年のこと。ソニーはその後ロボット事業から撤退し、ASIMOはホンダの顔として企業のイメージ戦略に寄与するという異なる道を辿った。

 しかし、これらのロボットは商品として開発されたものではなく、いわば技術的なプレゼンテーションの域にとどまるものだと、フラワー・ロボティクスの松井龍哉氏は言う。

 研究者からベンチャー起業家に転身し、会社設立10周年を迎えた松井氏に、「産業」や「商品」としてのロボット開発について聞いた。

産業ニーズに応えるシステムとしてのロボット技術を提供

川嶋 松井さんが目指すロボット像とは?

松井 龍哉(まつい・たつや)氏
フラワー・ロボティクス株式会社 代表取締役社長。丹下健三・都市・建築設計研究所を経て渡仏。科学技術振興事業団にてヒューマノイドロボット「PINO」などのデザインに携わる。2001年フラワー・ロボティクスを設立し、「Posy」「Palette」等のロボットを自社開発。スターフライヤーのトータルデザインを手がけ、グッドデザイン賞審査員を務めるなど、産業・空間デザイン界のキーパーソンでもある。(撮影:前田せいめい)

松井 将来的にロボットは家庭に入っていくと思います。そこに求められる機能は、自分で情報を集め、学習し、何かをフィードバックしてくれること。自分を制御できる新しい自律型ロボットが、これからのロボットの標準になっていくと思います。

川嶋 今取り組まれているのは、アパレル分野で使うものが中心ですね。

松井 マネキンにロボットの技術を入れれば、ヒューマノイドロボットのひとつのビジネスモデルができるのではないかと考えたんです。ただ動いたり走ったりするだけでなく、産業の中でちゃんと機能するロボットの成功事例を作る必要があるだろう、と。

 ベンチャー企業として、こういう経験を10年、20年と積み重ねていけば、ヒューマノイドロボットが家庭に入る時代にも対応できると思っています。人間型ロボットは結構ハードルが高いのですが、会社として少ない資金で作って運用していく経験がとても大切なんです。

 今の課題は、じっくり時間をかけてロボットに何が必要なのかをリサーチすることです。そのあたり、Palette(マネキン型ロボット)を販売するようになって見えてきたことがいろいろあります。

川嶋 例えばどういうことでしょう。

マネキン型ロボット「Palette」全身タイプ(写真提供:フラワー・ロボティクス)

松井 情報を取るためにロボットに音声認識をさせようとしたんですが、店舗でこれをやると個人情報の問題が生じるのでいらないと言われました。一方、カメラでお客さんの位置やハンドバッグの色や柄などの情報を検出・記録する機能は必要なんですね。

 一定時間内にウインドウの前を通過する人が持つ赤いハンドバッグがいくつあったか、といったデータが蓄積するとマーケティングに使えますから。そして、お客さんの視線。

 Paletteには動きのアルゴリズムを持たせているのですが、何パターンかの動きのうちどれが一番注目されたかをロボットが理解すると、お客さんにより効果的なポーズを見せていくことができます。

川嶋 なるほど。週末に若い女性が来るときと平日にマダムが来るときとで、動きを変えられたりするわけですね。