11月というのは、パリで最も気の滅入る月。10月末に冬時間に移行したとたん、日暮れがあっという間に来る。このところは5時になるともううす暗くなってくる。では、朝はどうかと言うと、8時でようやく明るいという程度だが、これも日に日に遅くなってゆくから、もうじき子供たちは、まだ暗い、街灯のともる町を通学するようになる。

地下鉄の構内が突然、三ツ星レストランに

マルシェのように野菜が並んだ駅構内

 クリスマス飾りで町が華やかになるのはもうちょっと先、空は雨がちで、既にコートが不可欠な陽気となれば、まばゆいばかりの夏は既に別の世界のことのようでさえある。

 さて、この時期をいかに乗り切るか・・・。都会の良いところは、ちょっとした気晴らしになるようなイベントが、何かしら、どこかで開かれているところ。

 それは例えば、いつもの行き帰りのメトロの駅の構内だったりする。

 ミロメニル駅は、メトロ9番線と13番線が交差する駅で、地区的には、オフィス街と高級住宅地が入り混じった場所に位置する。ターミナル駅ほどの賑やかさはないが、パリの中心地区にある乗継駅ということもあって、終日人の行き来は絶えない。

 その駅の構内で、有名シェフたちによるデモンストレーションがあるという。ウィークデーの3日間、3人のシェフによって、一般の人々にもできるレシピをその場で作って見せるというイベントらしい。

グランシェフの手にかかるとキャベツが大変身

メトロの駅構内でのデモンストレーションの様子

 私も2日目の昼の回を目指して、その駅に行ってみた。個人的にはあまり馴染みのない駅だが、イベントの場所はすぐに分かった。

 2つの路線を乗り継ぐためのコンコースにちょっとしたスペースがあって、そこに、パリの街角のマルシェでお目にかかるような野菜のディスプレーがされている。

 その奥に、ライティングされたお立ち台があって、もう既にデモンストレーションは始まっている様子。周りには、何重にも人垣ができている。

 この日のシェフは、ブルゴーニュはソーリューという町にある三ツ星レストラン「ベルナール・ロワゾー」の、パトリック・ベルトロン氏。

 フランスのガストロノミー界のスター的存在だったベルナール・ロワゾー氏が衝撃的な形でこの世を去ってしまった跡を受け継ぎ、三ツ星を堅持し続けている実力派シェフである。