世界に拡大した金融危機が実体経済をむしばみ、1929年に匹敵する世界恐慌に発展するのではないか、という声が聞こえてきます。この機に臨んで、名だたる製造企業のトップはこぞって「不況時こそ改革の好機」と発言しています。いずれの企業にとっても、改革の重要なテーマの1つが「在庫を減らし、ムダを削ぎ、キャッシュの流れのよい筋肉質の企業に生まれ変わること」であるのは間違いないでしょう。

 しかし、その改革は決して簡単ではありません。「改革」とは文字通り「改め変えること」です。複雑なシステムとなっている企業の全部署にわたって、日々の企業活動を改め変えることです。トップが号令をかけたとしても、速やかに全社の方向を転換するのは困難です。

 かつてドルショック、オイルショックなどで大不況となるたびにトヨタは改革を進め、他企業と差をつけてきたと言われます。実際にそうした不況時に、「本流トヨタ方式」の製造現場では具体的にどう対処してきたのかを、筆者の体験をもとに紹介したいと思います。

 ポイントは以下の5つです。
(1)目標とする「あるべき姿」を明確に掲げる
(2)まず「評価指標の改革」をする
(3)むやみに経費削減をしない
(4)減産と分かったらまず在庫を減らす
(5)「寄せる・止める改善」を展開する

不況時にはリードタイム短縮に挑戦する

(1)目標とする「あるべき姿」を明確に掲げる

 本流トヨタ方式の現場改革の要諦は、「品質(Q)を確保したうえで、リードタイム(D)の短縮に挑戦する。そうすれば 収益性(C)は後からついてくる」にあります。

 好況時には生産に追われるので、挑戦目標は自ずと「与えられた人員・設備能力でいかにたくさん作るか」となります。すると、生産能力の足りないところを在庫でカバーする運営になっていき、全体でかなり多くの在庫を抱えてしまうことになります。

 生産の絶対量が多く、作れば端から売れていく状況では、多在庫の弊害は顕在化しません。ところが不況になって、生産が落ちてくると状況は一転します。

 生産の面から見ると、市場で売れる絶対量が減るばかりか、売れ筋がころころ変わる状況になります。経営から見ると売り上げが減っていき、キャッシュの流れが滞りやすくなります。

 では、そうした市場変動に対応し、キャッシュフローを確保するために、現場ではどのようなことに挑戦すべきでしょうか。それは「与えられた人員・設備能力で、いかに短いリードタイム(=少ない在庫)で作るか」です。不況時に挑戦すべきは「リードタイム短縮」なのです。

 その際は、各社の事情に応じて具体的にどのような「構え」にするのかを明示し、全社に徹底することが肝要となります。

(2)まず「評価指標の改革」をする

 好況時は、基本的に前年度との開きが数%以内で企業業績が維持されるか、もしくは向上していきます。大多数の企業では、これを前提とした「全部原価計算による予算管理」によって各現場の利益管理を行っています。

 ところがこの会計の仕組みでは、工場は操業度を落とせば即赤字になってしまいます。一方で、在庫を持てば持つほど黒字になるという落とし穴があります。