アニメ、漫画、ファッション、ドラマといった日本のポップカルチャーが海外で人気を博すようになって久しい。

 日本文化が海外で高く評価され、影響を与えるようになったのは、もちろん今に始まった話ではない。ちょっと古くは、ミゾグチ、クロサワ、オズなどの映画があったし、もっとさかのぼれば、19世紀後半には欧州で日本文化が大ブームとなっていた。いわゆる「ジャポニズム」の時代である。

 ちょうど日本では江戸時代末期から明治にかけての時代だ。日本のおみやげとして、あるいはおみやげの包み紙として海を渡った浮世絵は、伝統的なアカデミズム絵画にあきたらなくなっていた欧州の画家たちに衝撃を与え、西洋美術史の流れを大きく変えることになった。

ポストグローバル~スーパーデザイナーの見た日本』(アレクサンダー・ゲルマン著、PHP研究所、2000円・税別)

 そもそも日本文化は、世界的に見て、成り立ちが極めて特殊である。欧州から、イスラムから、インドから、そして中国、朝鮮半島から、あらゆる文化が東の果ての日本にたどりつき、行き止まりの地でごった煮となって発酵して、世界のどこにもない独自の文化に生まれ変わった。そして、その文化が今度は世界中に発信されていく。

 ジャポニズム以来、多くの海外の芸術家が日本文化に魅せられてきた。ニューヨーク近代美術館が永久コレクションを収蔵するデザイナー・現代美術作家、アレクサンダー・ゲルマン氏も日本文化に深く魅せられた1人である。

 ゲルマン氏は『ポストグローバル~スーパーデザイナーが見る日本』を著し、ユニバーサルな政治経済モデルが行き詰まりを見せる中、日本文化こそがこれからの世界において重要な役割を果たしていくと訴える。

日本の伝統工芸職人は世界最高

──どうして日本文化に興味を持つようになったのですか?

ゲルマン 初めて日本に来たのは1997年でした。日本の企業のためにデザインをする仕事です。打ち合わせをしていると、日本の社会は言語や文字列より視覚的なイメージを重視するという話を聞きました。

 欧米では、視覚的なものよりも言葉が先にきます。日本人は逆だというんですね。それで日本人のものの考え方や文化に本格的に興味を持つようになりました。もともと東洋の武道を以前から習っていたし、日本には長い間、興味を持っていて、いつか学びたいと思っていたんです。

 その後、日本での仕事が増えて、東京にスタジオを構えました。私は日本刀がどのように作られるのかを知りたくて、友人に頼み、人間国宝である職人の仕事場を案内してもらいました。その後、自分の好奇心のおもむくままに歌舞伎や能、文楽など、いろいろな文化を体験させてもらい、どんどん深みにはまってきたというわけです。

──ゲルマンさんは世界のいろいろな国の職人たちと仕事をしていると思いますが、日本の職人をどう違いますか。

ゲルマン 日本の伝統工芸の職人は世界最高だと思います。

 私は世界の様々な国の職人たちを見てきたし、一緒に仕事もしました。でも、日本の方が間違いなく上を行っている。日本の職人は本当に小さくて微細なものを作り上げることができます。しかもパーフェクトにです。世界でこんな職人たちはいないと思います。