政権交代が実現し、民主党主体の鳩山由紀夫連立内閣が発足した。国家戦略室が新設されたほか、100人以上の与党議員が各省庁に大臣・副大臣・政務官などとして政府内に入り、「政治主導」で政策決定を行う仕組みが動き始めた。2009年9月16日夜、初閣議後の閣僚懇談会では「政・官の在り方について」が申し合わされ、事務次官会見が急遽中止になるなどドタバタも始まっている。

鳩山氏、新政権の財務相に藤井氏を起用へ

第93代内閣総理大臣〔AFPBB News

 それでは、政と官の関係は具体的にどう変わるのか。

 自民党の麻生太郎前政権がとりまとめた2010年度予算の概算要求は白紙となり、予算編成は新政権下で劇的に変わるのが既定路線。一方、概算要求基準と同じ2009年7月1日に閣議決定された公務員人事に関する「2010年度以降の定員管理について」はどうなるか。堅持するのか、白紙に戻すのか。新政権からはまだ何の示唆もない。

 政権交代に伴い、政と官の関係がどうなるのか。1990年代英国と戦前期日本の事例を基に、今回は「水晶玉占い」を試みる。

衝撃の英財務省体験記、ブレア政権下で「政治化」した行政

ブレア英前首相の回顧録出版決定、ブラウン現首相との「確執」明らかに?

ブレア政権下の英国で何が起きたのか?〔AFPBB News

 筆者の手元に、財務省の若手官僚がまとめた報告書がある。30代半ばの主計局主査、高田英樹氏が3年間にわたる英国財務省での勤務体験を、帰国直後の2006年にまとめたものだ。タイトルは「英国財務省について(最終報告)」。氏個人のウェブサイトで公表されている。

 2009年9月6日付の日本経済新聞朝刊で大林尚編集委員がこの報告書を取り上げたことから、既に読まれた方もいるだろう。

 高田氏の描いたトニー・ブレア労働党政権下の英国財務省の実態は、今後の日本の政官関係を占う上で実に興味深い。というのも、わが国の民主党がマニフェスト(政権公約)で掲げた政官関係の理想と、その実態が以下の2点でどうも乖離しているようなのだ。

 その乖離の第1は「行政の政治化」だ。

 先の総選挙の民主党マニフェストは、(1)政治主導の確立により真の民主主義を回復する(2)そのために与党議員が大臣・副大臣・政務官などとして政府の中に入り、中央省庁の政策立案・決定を実質的に担う――と公約している。

ブラウン英首相、相次ぐ問題に「傷ついた」「明日にも去るかもしれない」

ブラウン財務相(現首相)時代、英国では顧問政治が横行〔AFPBB News

 他方、ブレア政権で起こったことは何か。高田氏の報告書によれば、大臣ら政治家ではなく、その意を受けた政治任用の顧問らが行政府内で権勢を振るう構図だった。その典型が当時のゴードン・ブラウン財務相(現首相)の側近中の側近、エド・ボールズ氏(現児童・学校・家庭担当相)であった。

 選挙によって選ばれた閣僚が政策を主導し、官僚が政治的に中立なテクノクラートとして閣僚を輔弼し、決定された政策を執行していく――。英国のみならず、日本でも当然のことだろう。

 しかし、「悪魔は細部に宿る」である。いかなる政策も、その細部や執行過程にまで下りていかなければ、実効性が担保されないことが多い。ブラウン財務相の大胆な改革政策を実行するため、ボールズは顧問として政策立案の助言範囲を超え、行政の執行にまで強力な影響力を行使していた。