来年から米国市場に投入するという完全電池駆動の新車「e6」の公表性能がすさまじい。家庭用コンセントにつなぎ、1度の充電で走れるという距離の触れ込みが実に400キロメートル。5人乗り、2020キログラムの車体が停止状態から時速100キロメートルへ達するのにかかる時間が、8秒未満だというその加速性能。
車両重量がちょうど半分の三菱自動車「i-MiEV」が「目安として、市街地で時速40~60キロメートル程度、空調無しで走行した場合には約120キロメートル、エアコン使用時は約100キロメートル、ヒーター使用時は約80キロメートル程度」の距離しか走らないと慎重な物言いなのに比べてほしい。
大風呂敷も時に賢人をうならせる
ハッタリでもいいから話題先行、ブランド浸透を狙っているのは明らかだ。マジメ人間の日本企業には到底真似ができない先食い型、大風呂敷広げ型マーケティングである。
しかし好材料視され株価が上がるなら、それを元手にどっかを買収することだってできるだろう。いやがうえにも経済ジャーナリズムの関心を集めるだろう。良いこと尽くめなのだから、何を臆することがあろうかという割り切りがありそうだ。
いやWang Chuanfuなる御仁には、「こんなハッタリ、信じるオマエがアホなんや」と言われそうな気すらしてくる。でも面白いじゃないか、それほど見え見えの釣り書きで自分を売り込む剥き出し素朴の欲望本位主義、それから跳躍に跳躍を重ねて成長しようとする拙速至上主義と、そのアニマル・スピリットに賭け金を張り込むオマハの賢人と。
この分だと、賢人はBYDがぺろっと舌を出し「ええ、実は100キロメートル走れるかどうかなんですよ」なんと言い出す直前辺りまでに持ち株を売り抜けようという算段なのだろうが、超大物と忽然いずこかから現れた有望新人の化かし合いだ、面白くなかろうはずがない。
日本が見習うべきはこのエゲツナサ?
この手の活劇を目で見て耳で聞き、活字に定着するクセを日本経済ジャーナリズムは失うべきでない。成金バロンたちを引きずり出し、そのプロファイルをお天道様にさらすエゲツナサを、半分失くしかけているなら今からでも遅くない、鍛え直すべきだ。
と同時にわが国自動車各社ならびに自動車技術で食ってる会社、団体、大学は、幻の高性能車BYD e6が本当に売り出された暁、待ってましたとばかりその詳細な解剖リポートを発表すべきだろうし、香港証券市場の公開基準で分かる限りの財務データがある会社なのだから、詳しい銘柄分析的リポートもフツーに読みたい。
面白い話をたくさん見ておかないと、面白がる能力がなくなりそうで心配だ。それが細ってしまうと面白いイノベーションができなくなり、日本企業の成長もなくなる。すると民主党のマニフェストなぞは当然画餅に帰すし、なかんずく、新総理が好きそうなアジア共通通貨など、もしできた日には人民元基軸通貨体制にさせられるのが落ち、と、いま1本ロジックが通った。風が吹けばナントヤラ、式の。
