8月4日、ビル・クリントン元大統領が北朝鮮を電撃訪問した。滞在時間24時間足らずだったが、金正日総書記と面会、中朝国境で脱北者問題を取材中に拘束されたアジア系の米国人女性ジャーナリスト2人の解放に漕ぎ着けた。これにより米朝対話再開への機運が高まってきている。クリントン氏との会見で見せた金総書記の微笑にも、そのような期待があるように感じられる。
しかし、金総書記が核開発断念をエサに米国と交渉して、1994年の「枠組み合意」によるエネルギー支援や軽水炉の提供を得て、核保有国として認められようと計算しているとすれば、オバマ政権と米国の置かれた環境をよく理解していない、ということになる。
一方、クリントン氏訪朝で、ブッシュ政権後半の米朝対話の急速展開によって日本が「かやの外」に置かれた悪夢の再来を懸念する向きもあるだろう。もちろん、北朝鮮が核開発断念に積極的に動けば、オバマ政権はそれに対応する準備はあるだろう。しかし、同盟国である日本・韓国や、中国といったアジアの重要パートナーの意向を無視してまで、一足飛びに米朝交渉に突き進む可能性はそれほど高くないと言える。
それはなぜか? クリントン政権後半やブッシュ政権後半は、核開発断念の条件が多少、緩くても、米朝の関係正常化を先行させることで、北朝鮮の非核化を誘導しようとする「関与政策」や「太陽政策」を基本としていた。しかし、前の2つの政権の16年間の対朝外交の試行錯誤と国際環境の変化を経て、オバマ政権の北朝鮮政策の発想は、かつてとは微妙に変わってきているのだ。
対朝交渉再開は、6カ国協議への復帰が前提
オバマ政権は、クリントン氏訪朝を「あくまでも政府とは関係ない個人による人道的な名目での訪問」と位置づけている。しかし、8月9日の日曜日のニュース番組に政府高官が出演、クリントン氏訪朝の背景説明を行った。
そこには、人質解放の成果をアピールする目的もあったが、むしろ、「約束を守らない国と安易な取引をして、今後の米国人の安全や核開発問題で禍根を残すのではないか」といった内外の批判に答える意味が大きかったと思われる。