消費マインドは、本当に改善しているのだろうか。
日銀は7月の金融経済月報で、「消費者コンフィデンス」を示す指標として、(1)内閣府が毎月行っている消費動向調査の消費者態度指数、(2)日経新聞が毎月調査している日経消費予測指数、(3)日本リサーチ総合研究所が2カ月ごとに行っている消費者心理調査の生活不安度指数を取り上げてグラフを掲載した上で、「消費者コンフィデンス関連指標は、引き続ききわめて低い水準にあるものの、小売価格の下落に加え、各種の需要喚起政策などから、足元では幾分持ち直している」という判断を記している。
筆者としても、そうした日銀の判断に基本的に違和感はないのだが、上記(2)の日経消費予測指数については、他の2指標よりも改善度合いが鈍い。
日経新聞の8月6日朝刊によると、7月の日経消費予測指数(2004年12月=100)は71.0で、前月比▲0.6ポイントとなった。「旅行・レジャーの支出意欲」と「世帯収入の増え方」の2項目が悪化、それ以外の4項目が上昇した。夏のボーナスが民間企業を中心に大幅に減少したことが影響したものと推測される。やはり所得環境がよくならないと、消費マインドは振るわない。
上記(3)の生活不安度指数(他の2指標と異なり、数字が大きい方が不安心理増大=マインド悪化を示していることに留意)は、直近6月調査で、前回4月調査比8ポイント低下(改善)の151まで持ち直した。過去最悪の165(2008年12月調査)から3回連続の改善である。
しかし、この生活不安度指数については、興味深い指摘がある。やや長くなるが、山本直人著『「買う気」の法則 広告崩壊時代のマーケティング戦略』(アスキー新書)から引用してみよう。
「経済が回復基調になって財布の紐がすぐに緩くなるわけではない。90年以降の消費行動はあたかも風船のようである。『買う気』の回復はゆっくりだが、いったん何かがあると一瞬にして縮こまる。懸命に膨らませた風船に針を刺したような感じなのだ。何度かの破裂を繰り返すうちに、風船を膨らませるのも徐々に慎重になる。何度かの低価格志向の時期を経て、消費者は学習した。一度安く買うことを学ぶにつれて、価格への要求は強まる。極端な低価格志向の時期が過ぎても、価格コンシャスな消費者は増えていくだろう。それは、手元にいくらお金があるかという問題ではない。背景にあるのは『不安』という心理の高止まりである。このことは継続的な調査データで裏づけられている」
「長期的にみると不安のピーク数値は高まり、改善された数値も悪化する。不安のピークは何回もあるが、段々とピークの数値が悪化する。93年は133だったが、2008年は165である。一方で、96年6月には107まで改善していたが、2005年の数値は132に留まっている。この指数は93年の悪化時のピークとほぼ一緒である。つまり、不安は長期的に増大しているのである」
日本型雇用・賃金慣行の崩壊、生産年齢人口が1995年をピークに減少トレンドに入る中での国内需要の「地盤沈下」継続、年金制度に対する不安感・不信感。これらを背景に、消費者が抱いている不安の度合いは、山本氏が指摘しているように、トレンドとして膨らむ方向にあるのだろう。
市場は米国を中心に株高・債券安の流れとなっており、国内では大手メーカー決算の赤字幅圧縮が材料になっている。しかし、赤字幅圧縮の背景には、雇用人員調整や夏のボーナス大幅削減といった人件費カット、中小下請け企業との部品納入条件見直し(=中小へのしわ寄せ)、研究開発を含む設備投資関連費用の圧縮(=当面の設備投資動向のみならず、潜在成長率にとってもネガティブな要因)などがあると考えられる。決して手放しで喜べる話ではない。
一部では、7月に入ったあたりから消費が急に悪くなったのではないか、という話が出ている。統計データ上ではまだほとんど確認されていないが(7月の大手百貨店売上高の落ち込みはバーゲン開始時期前倒しの反動という説明も可能)、上場企業の夏のボーナスが日本経団連の最終集計で前年同期比▲17.15%という極端な落ち込みになっている上に、全国的に天候不順となっているだけに、個人消費が一段悪化したことを示すデータが今後出てくるとしても、筆者としては、驚きはまったくない。
個人消費という角度から見ても、景気状況はとてつもなく厳しい。国内債券相場は今般の調整局面が一巡した後、景気「二番底」懸念とデフレ懸念の強まりを原動力に、堅調推移に復するだろう。引き続き、長期金利の一段の低下を予想している。