「本流トヨタ方式の土台にある哲学」について、「(その1)人間性尊重」「(その2)諸行無常」「(その3)共存共栄」「(その4)現地現物」という4項目に分けて説明しています。

 「(その1)人間性尊重」の哲学には、次の8カ条があります。

(1)ありのままを受け入れ、持っている能力を引き出し、存分に発揮してもらう
(2)会社都合で従業員を解雇しない
(3)家族の応援と職場のチームワークが活力の源
(4)人を責めずにやり方を攻めよ
(5)異動は一番優秀な人から
(6)3年経ったらサボれ
(7)偉い人が言ったから正しいのではない。正しいことを言った人が偉いのだ
(8)最後に決断を下し、全責任を取るのが上司の役目

 前回は、この中の「(1)ありのままを受け入れ、持っている能力を引き出し、存分に発揮してもらう」について話をしました。

 もう少し説明を加えますと、「持てる能力」とは、手足を動かす能力だけを言っているのではありません。現状を認識し、課題を発見し、解決策を考え、実施し、課題を解決していく能力、言い換えれば「脳力」も指しているのです。

 欧米企業では一般的に、頭で働くホワイトカラーと、手足を動かして働くブルーカラーの間に明確な線引きがあります。

 これに対して本流トヨタ方式では、ホワイトカラーもブルーカラーも分け隔てなく個人としての人格、人権を尊重します。ブルーカラーであっても、いわば自治権を獲得し、働きがいや達成感を感じながら成長できることになります。会社側から見れば、すべての社員がやる気を持って働いてくれて、生産性や変化への対応力を持ってくれることが期待できるのです。

 さて、現場がやる気を持って改善に取り組んだ結果、10人で行っていた仕事を9人でできるようになったとします。この時、会社が1人を解雇したとしたら、その現場はどうなるでしょうか。

 解雇された人は、改善を進めた中心人物を恨むでしょう。恨まれた改善リーダーは、改善とは一体何だったのかと思い悩むことでしょう。そして会社に残った9人は、解雇されないようにサボり、不良を出し、常に人手不足であることを演じ続けることでしょう。

 言い換えると、改善活動をして上司から褒められ、仲間から認められるだけではなく、「絶対に解雇はない」という条件が揃ってこそ、改善と職場の進歩、個人の成長が望めるのです。このことから、人間性尊重を掲げる限り、会社都合で解雇をするようなことがあってはならないのです。

かつて従業員の2割を解雇したトヨタ

 今回は「(2)会社都合で従業員を解雇しない」について説明しましょう 。

 「従業員は家族同然であり、会社都合で解雇しない」という考え方は、豊田佐吉翁に端を発し、トヨタ自動車に脈々と受け継がれてきた考え方です。

 終戦直後、強烈なインフレが起こり、これを沈静化するためにドッジ・ラインと呼ばれるデフレ政策が取られました。その結果、各企業は資金繰りに困るようになりました。

 トヨタもその例外ではありませんでした。売掛金が回収できなくなり、1950年に倒産寸前まで追い込まれました。この時、銀行の融資の条件が、約8000人いた従業員の2割を人員整理することだったのです。組合は猛反発して労働争議に突入しました。

 トヨタ自動車の創業者である豊田喜一郎社長自身も人員整理には反対していたと聞きます。労働争議は約2カ月に及び、2000人を超す希望退職者を出して収束しました。喜一郎社長は責任を取って辞任し、首脳陣も後を追いました。