あの「のび太」にリーダーシップがあると言われたら、誰もが意外に思うはずだ。

 漫画「ドラえもん」に登場するのび太は「ダメな奴」の代名詞である。グズでのろまで、勉強もスポーツもからきしダメ。いつも同級生のジャイアンやスネ夫からいじめられている。大人になった時に、人生の「負け犬」になるのは目に見えている。そんなのび太についていこうと思う人はいないだろう。

 だが、「ドラえもん学」を研究する横山泰行・富山大学名誉教授は、著書『「のび太」という生きかた』(アスコム)の中で、のび太は決して負け犬なんかではないと主張する。のび太は憧れのしずかちゃんと結婚する夢を叶え、映画の中ではヒーローとして活躍する。「実は想像以上に人生を上手に歩んでいる」というのだ。

実は「勝ち組」の人生を歩むのび太

 本書が発行されたのは2004年である。それから5年以上経った2010年5月に逗子開成中学のホームページに掲載された生徒の読書感想文が「すごすぎる」とネットで話題になり、さらに今年に入って東日本大震災が起きたことで火がついた。売れ行きが急増し、10万部を突破するベストセラーとなっている。

「のび太」という生きかた』(横山泰行著、アスコム、1200円、税別)

 横山氏は、本書がこの時期にブレイクしたことの理由を、「震災をきっかけに、自分を見直してみよう、背伸びせずに等身大で生きていこう、と考える人が増え、その見本としてのび太の生き方が注目されたのではないか」と分析する。

 本書によれば、のび太が「ダメな奴」でありながら様々な夢を叶え「勝ち組」に転じられたのは、決してドラえもんが助けてくれたからではない。のび太自身の生き方に秘訣があったのだ。

 例えば、のび太は「人の悪口を言わない」「くよくよ考えずにしゃにむに取り組む」「くじけない」「他人の素晴らしい面を素直に肯定する」──。そうした生き方が実は人生を好転させるカギなのだという指摘は、確かにうなずけるものがある。

 さらに、のび太にはリーダーシップもあった。横山氏は、<彼(のび太)は友だちに信頼され、ときにはドラえもんに代わって集団の中心人物としてリーダーシップを振るうこともあります。>と記している。