景気「二番底」シナリオが現実味を帯びつつあり、金融危機は終了には程遠く、各国中央銀行による金融緩和措置は終わっていない。そして、長期金利は内外ともに、低下余地がなお大きい。
市場は6月29日から7月3日までの週に各種の大きなイベントを通過したわけだが、そこから再認識する必要が生じているのは、冒頭に記した事柄である。
日本では、経済に対してショック「第2波」が及んでいることが浮き彫りになった。輸出急減ショックに続き、今度は国内需要の面で、「供給サイドのダウンサイジング」、すなわち機械設備や雇用人員の減少圧力が格段に強まる動きが表面化している。
日銀短観6月調査では、大企業の2009年度設備投資計画が前年度比▲9.4%という弱さになり、うち製造業では同▲24.3%という厳しさだった。5月の完全失業率は5.2%に上昇し、過去最悪の5.5%が視野に入った。先行指標である新規求人数の動きなどからみて、遅行指標である完全失業率は6%接近といった一段の悪化が避けられない情勢にある(「歴史的な雇用悪化」参照)。
米国では、消費者信頼感指数や雇用統計の6月分の結果から、「リーマン・ショック」前後の水準にリバウンドしてきた景気指標の上向きの力が早くも減衰してきていることが明らかになった。急悪化の反動としての指標好転に持続力はなく、結局は元の悪化トレンドに戻っていくのではないか、という見方が市場で広がり、米国ひいては世界の経済の「V字型」回復論に対し、大きなダメージが及ぶことになったと言えるだろう。
米国は「消費経済」である。雇用情勢が悪化を続ける場合には、需要項目別に見た場合の米国経済の中核である個人消費の回復は、どうしても阻害される。また、家計の収支状況悪化には、雇用情勢の悪化によって拍車がかかりやすくなる。すると、米金融機関のリテール向け貸し出しの焦げ付き率が上昇することを通じて、金融システムの安定回復もまた、遅れることになる。
欧州では、スウェーデン中銀(リクスバンク)が2日に、予想外の追加利下げに踏み切ったことが、最も印象的だった。レポレートは0.25%引き下げられて、過去最低の年0.25%になった。同中銀は声明文に、今回の利下げによって金融市場の機能が脅かされるとは評価していない、と明記した上で、「レポレートは2010年秋までこの低水準にとどまり続けると予想される」とした。また、レポレートの将来予想を記した部分(小数点以下1ケタで表示)では、2009年7-9月期、同10-12月期、2010年7-9月期について、0.3%とした(10年1-3月期と4-6月期については表示なし)。市場に対しては、0.25%の超低金利が足元から1年以上続くだろうという、「時間軸」効果が及ぶことになる。副総裁の1人はゼロ金利を主張した。このほか、スウェーデン中銀は欧州中央銀行(ECB)と同様に、期間1年の固定金利による資金供給を行うことを決めた。
スウェーデン中銀の声明文には言及がないが、関係の深いラトビアで発生した通貨危機によって、スウェーデンの銀行システムは少なからぬダメージを受けている。今回の追加利下げには、世界景気悪化から同国の内外需が大きな打撃を受けているということのほかに、グローバルな金融危機がまだ終わっていないことを示す一事象という意味合いもあると言えるだろう。
日本の債券市場では、2年債利回りが0.3%を割り込むなど、長期金利の低下が各年限で進行している。筆者が掲げている債券相場「頭を押さえ込まれた鯛」シナリオに沿って考える場合、利上げなし状況(超低金利局面)がこのまま長期化するだろうという金利観が市場に浸透してくれば、長めのゾーンの金利には自ずと低下圧力が加わってくる。
5日投開票の静岡県知事選で民主党系候補が勝利したことが、都議選の結果ひいては解散総選挙の時期と結果にどう影響するか。国内政治の関連では、緊張感漂う場面が続いている。
興味の対象として、小泉純一郎首相(当時)の下で自民党が大勝した前回衆院選(2005年9月11日)の結果を受けた翌12日の債券市場の状況を振り返ってみると、10年債(当時1.355~ 1.365%で推移)や20年債(当時1.995~2.005%で推移)の水準は、実は、足元の市場実勢と比べ、さほど変わらない。目立って異なるのは、2年債(当時0.165%)や5年債(当時0.570~0.590%で推移)といった中期ゾーンの金利で、これには量的緩和下で翌日物金利がゼロ%近くで推移していたことが影響している。現在は、翌日物金利が年0.1%水準になっている分、イールドカーブの手前の部分が2005年9月当時よりも底上げされている、ということである。
市場機能維持にこだわる白川方明日銀が残した「のりしろ」とも言えるこの翌日物金利0.1%の差を、どう判断するか。
運用資金を滞留させておく場として短期金融市場がワークする度合いは、4年前に比べて、確かに大きくなってはいるだろう。2年債利回りの低下余地も、例えば0.1%割れは難しいといった意味合いで、自ずと限定されてくる。
しかし、「偽りの夜明け」発言で自らの立ち位置をしっかり決めた感が強い日銀が利上げに動く見通しが立たないとすれば、短期金利や2年債利回りで低下余地の限界を試すような動きが続いた後で、長いゾーンへと資金シフトが起きていかざるを得ないという大枠には変わりがないだろう。そして、今回のグローバルな景気悪化・金融危機の傷跡の深さは、IT関連の在庫調整で景気が「踊り場」入りしていた2005年当時には、想像さえもできなかったことである。したがって、筆者は足元金利の0.1%の差を過度に大きく捉える必要はないものと考えている。
筆者は引き続き、10年債利回りは1%前後へと一段低下するものと予想している。