東日本大震災発生以降、たびたびドル円相場が円高方向に振れる機会が増えている。3月17日には、一時、1ドル=76円25銭と史上最高値を更新。6月以降も80円台を超える場面が見られた。

 主要マスコミでは様々な理由や背後関係が説明されているが、筆者の目にはいずれも不自然に映る。市場の乱高下の背景には、いびつな超低金利政策と、これに旨味を見出す海外投機筋の影がちらつく。

円急騰の説明に感じる違和感

 「復興需要を先取りする投機筋の先鋭的な円買いが加速」「巨額支払いに備えた日系保険会社の海外資産処分で円急騰」・・・。

 3月17日午前、ドル円相場が一時、同76円25銭まで急騰したあと、主要な新聞、テレビでは突発的な乱高下の背景をこのようなトーンで解説した。

 大地震と想像を絶する津波被害に加え、福島第一原発事故と震災発生直後の日本経済は未曾有の混乱に巻き込まれた。経済の教科書に照らせば、円は売られてしかるべき状況にあった。だが、予想に反して円が急騰。1995年4月に記録した1ドル=79円95銭の記録はあっさりと破られた。

 95年から長らく市況担当記者を務めた筆者には、先に触れたいずれの説明にも違和感があった。

 まず「復興需要の先取り」という説明についてだが、多くの海外投資家が、今般の大震災の被害がかつての阪神淡路のケースとは比較にならない規模に達していると早い段階から理解していた。米系運用会社のアナリストは、「東北一帯に世界中のサプライチェーンを担う工場が散らばっていた。復興は半年や1年のスパンではなく5年、10年の話で、需要の算定など不可能」と指摘する。

 実際、株価は極めて分かりやすい軌跡をたどった。日経平均など主要指数の下落率は10%を超え、ブラックマンデーやリーマン・ショックに次ぐ下げとなった。