補助金や減税でなりふり構わず新車需要を下支えし、経営破綻したメーカーは国有化・・・。出口が見えない大不況の下、「自動車産業の社会主義化」(外資系証券アナリスト)と言うべき現象が世界的に広がってきた。自動車産業は雇用の裾野が広く、各国の支援策は地元優遇の色が濃い。保護主義が蔓延すれば最も打撃を受けるはずの輸出立国、すなわち日本でもそれは例外ではない。
「これでは自動車減税というより『トヨタ減税』だ!」
欧州系の輸入車大手の関係者は、政府が2009年4月に導入した優遇税制を苦々しい表情でこう評する。
今回の優遇税制は環境性能に応じて、新車の自動車取得税と自動車重量税を50~100%減免するものだ。例えば、低排出ガス認定レベルが最高の「4つ星」を取得し、2010年度燃費基準を15%上回って達成している場合、両税が半額になる。
日本車は4割程度が減税対象となるが、6月時点では輸入車の対象車はほとんどない。燃費面で条件を満たす輸入車は珍しくないが、低排出ガスの基準をクリアしていないためだ。
輸入車は原則として、本国の環境基準に合わせて設計されている。街中の走行時間が長い日本と、都市間の長距離移動が多い欧州では、排ガスのクリーン度を評価する方法が異なる。日本基準は粒子状物質や窒素酸化物に、欧州基準は二酸化炭素に対してそれぞれ厳しい。
欧州車が4つ星を取得するには、車に技術的な調整を加える必要がある。このため、シェア1位の独フォルクスワーゲン(VW)グループジャパンをはじめ、輸入車各社は煩雑な手続きを敬遠して申請を見送っていた。VW幹部が「4つ星にこういう使われ方があるとは思わなかった。減税の対象にならなければ、輸入車はエコではないと誤解される」と後悔しても、後の祭りでしかない。
最大の恩恵は「プリウス」に、出遅れた輸入車業界
一方、最大の恩恵を受けているのは、減税開始直後という絶好のタイミングでハイブリッド車(HV)「プリウス」の新モデルを投入したトヨタ自動車だ。両税の全額免除が追い風になり、2009年5月18日の発売からわずか2週間で受注台数は13万台を突破した。これは、1~5月の外国メーカー車の総販売台数の2倍を超える水準となる。