「本流トヨタ方式」の土台にある哲学について、「(その1)人間性尊重」「(その2)諸行無常」「(その3)共存共栄」「(その4)現地現物」という4項目に分けて説明しています。

 ここ数回にわたって、「(その4)現地現物」に関してお話ししてきました。前回は、現地で現物を見て「何を読み取るか」について考えてみました。

 今回は、現場における人間関係の捉え方について考えてみたいと思います。

両脇に工長と組長を従えて出迎えてくれた人物

 トヨタ自動車では、大卒・院卒ともに現場をしっかり分かっていなければいけないという基本方針の下で、新入社員には「2週間(昼夜勤)×4回」、すなわち正味2カ月間の現場体験実習がありました。まず、45年前に筆者がその実習を通じて得た貴重な体験についてお話しします。

 筆者の実習は本社鋳造部から始まりました。朝、鋳造部長と鋳造課長による型通りの実習に当たっての訓話、注意事項の話があった後、迎えに来た組長の後について現場に入っていきました。焦げた鋳物砂の強烈な匂い、黒い鋳物砂から顔を出す真っ赤な鋳物、砂と鋳物を分離させるための加震装置の激しい騒音、まさに「3K」職場でした。組長は何も言わずにその職場を通り抜けていき、工場の反対側にある階段を上り始めました。

 通されたのは、中2階にある、かなり大きな部屋でした。いくつかの事務机と会議机を両脇に置き、部屋の中央には両袖の付いた立派なデスクが配置されていて、そこに威厳のある「工長」姿の男がいました。両脇には工長、組長が勢揃いしていました。

 筆者たちを連れてきた組長は最敬礼で「実習生を連れて参りました」と言ってから最後列に退きました。その瞬間、筆者は時代劇に出てくる「牢名主」を思い浮かべました。牢名主は実習生に向かって、親が自分の子どもに諭すように「将来トヨタを背負っていく自覚を持つこと」「鋳物を見たら、働いている人を思い起こせ」「設計図は間違えたと言って消しゴムで直せるが、現場では一からやり直しになる」などを話してくれました。

 製造部長から何を聞いたか全く覚えていませんが、牢名主の言葉は今でも覚えています。そのくらい威厳と説得力ある話でした。