グルメの都、パリ。ミシュランガイドの星の数では、東京に首位の座を譲りはしたが、それは町の規模の違いによるものに過ぎないと、美食家のパリジャンたちの誇りは揺るがない。
さて、そのグルメの世界で最近話題になっているのが、有名シェフたちによるお料理教室。三ツ星クラスのレストランを率いる、いわゆるフレンチのスターシェフたちが相次いで、料理教室をビジネスとして展開し始めた。
もちろん、日々のレストランの仕事もあり、メディアやイベントにも引っ張りだこの彼らのことであるから、スターシェフ本人が教えるというわけにはいかないが、彼らのレストランの厨房で長く経験を積んだスタッフたちが、星つきレベルのフレンチの技術を伝授する。
「日本」も取り入れたギー・マルタン氏の料理教室
昨年春にオープンした「Atelier Guy Martin(アトリエ・ギー・マルタン)」は、パレロワイヤルの名店「Le Grand Véfour(ル・グラン・ヴェフール)」のシェフ、ギー・マルタン氏の料理教室だ。
数々の歴史的逸話を持つこのレストランは、彼の下で2000年からミシュランの三ツ星であったが、2008年に残念ながら二つ星に降格になってしまった。とはいえ、長年の常連は変わらず店に訪れ、その人気が凋落した気配はない。
マルタン氏とは、日本の雑誌の連載のために数年間一緒に仕事をしたので、その勢力的な仕事ぶりを直に感じてきたが、「アトリエ」の企画を「Nouvelle aventure(ヌーヴェル・アヴォンチュール)=新しい冒険」と意気込んで話してくれた調子からは、その冒険の大きさをオープン前からでもうかがい知ることができた。
出来上がった「アトリエ」は、パリ8区、オフィス街から高級住宅地へと移ってゆくその境目のあたり、かつての邸宅1軒をまるごと改装したものだった。
静かな中庭に面して、3階建の階ごとに最新鋭のプロ仕様のキッチンギャラリーがあり、日本びいきの彼の発想らしく、ギャラリーには「seimei」「kaze」といった名前がついている。また別棟に設けられたブティックでは、キッチンで使っているアイテムを買える仕組みになっている。
5月のある土曜日、実際にレッスンに参加させてもらうことになった。その日の生徒は、30代の女性5人のグループと、女の子2人を連れたマダム。先生は「ル・グラン・ヴェフール」でキャリアを積んだ若いシェフ。
料理人というと、黙々と仕事をするタイプの人を想像しがちだが、マルタン氏同様、この人もまた人当たりが柔らかで、会話もなめらか。英語でも問題ないという。「アトリエ」の先生には特に、そのような人材が抜擢されてくるのだろう。