「仕手株」という株式用語をご存じだろうか。
野村証券の用語解説集によれば、「短期間に大きな利益を得ることを目的として株式市場(流通市場)に参加する投資家を『仕手』または『仕手筋』などと呼ぶが、これらの人々が好んで売買の対象として取り上げる銘柄のこと・・・」とある。
仕手という言葉の背後には、うさん臭い金融ブローカーや、反社会的勢力の影がちらつくものだが、ここでは全く違う切り口で最近の動向を読み解いてみよう。
昨今、株式市場では我が国最大の産業である自動車株を「仕手」と呼ぶ向きが少なくないのだ。なぜブルーチップ(優良株式銘柄)の代表格が仕手株なのか。
3割4割上昇は当たり前
「この値動きは完全に仕手株だよ」・・・。
ベテランのファンドマネジャーが筆者にある資料を見せてくれた。東証株価指数(TOPIX)が年初来で若干のマイナスを記録していた時期(この4月後半から5月初旬にかけて)の自動車株の値動きだった。
全体相場が低調な動きとなる中、トヨタ自動車は年初来比で30%超のプラス、ホンダは同40%超、富士重工業は同50%超などと表に出ていたのだ。
昨秋の金融危機の発生以降、日系メーカー各社は急激な販売の落ち込みに対応するため、減産に次ぐ減産を繰り返した。
筆者が件の資料を目にしたタイミングは、各社の在庫が許容水準まで低下したことから、今後設備稼働率を徐々に回復させるとの報道が相次いだ時期だった。
また、景気対策の一環として、エコ減税などの施策が矢継ぎ早に打ち出された直後でもあった。加えて、米ビッグスリーの体力低下が著しかったこともあり、米国での日本勢の相対的なシェア拡大を予測する声も出始めていた。それだけに「非常事態が終わったからこその株価回復ではないのか」と筆者はマネジャー氏を質した。
だが、返ってきた答えは明確な「否」だった。
アナリストが主導した「机上の空論」
その理由は明解だった。同マネジャー氏曰く、「金融危機以前の水準に世界の自動車需要が回復したわけでは決してない」・・・。
同氏の言葉を言い換えると、「机上の空論に導かれた推計を頼りに、株価が根拠なき上昇を続けた」ということだった。