世界で最も乾燥した砂漠と言われるアタカマ砂漠が国土の北3分の1を占めるチリ。銅の生産量は世界一を誇り、その世界シェアは36%に相当する。

 ボリビアの出国手続きを済ませ、チリに入国した。アンデス山脈を下り、荒涼とした高原地帯の一本道を延々とバスは走る。

チリのカラマ

 夕方、赤茶けた地面と山肌の風景から忽然と街が現れる。砂漠の中にある銅山の街、カラマである。この街には世界最大の露天掘り銅山、チュキカマタ銅山がある。

 茶褐色の雄大な大地が削り取られ、巨大の窪みの道が作られている。その道を、日本のコマツ製の黄色い超大型トラックがへばりつくように土砂を積み上げて連なる。

 この大きなトラックも、人為的に削り取られた長大な窪みの中では、極微な蟻にも及ばないくらい小さく見える。その光景を目の当たりにすると、普段、日常生活で感じる物の大きさという概念が、錯覚であったかのような戸惑いを覚える。

坑夫たちの前で踊る女

 カラマは男たちの街である。日が暮れる頃、街には勤めを終えて赤茶色の土埃にまみれた作業着姿の荒くれ男たちがあふれる。酒場ではビールジョッキをあおり、天井に吊るされたテレビで放映されるサッカーに一喜一憂しながら歓声を上げる。

 ホールの端には、黒革のミニスカートをまとった女たちが優しく微笑みながら、そんな男たちに視線を投げかけ、紫煙をくゆらせる。

 鉱山のこの街にはバーやナイトクラブが多数ひしめき、大地を掘削する男たちの孤独と欲求を満たしている。

 私はチリのメジャービールである「クリスタル」というブランドの電光のネオンがきらめく、場末のナイトクラブ「アメリカーナ」のドアを押した。黒いビニールレザーの2人がけのソファーが、鏡の張られた狭小なステージを向いて並んでいた。

 店内は薄暗く、耳をつんざく大音量のロックンロールが響く。天井に吊るされた陳腐なミラーボールが赤紫のレーザー光線を放射し、この場末の酒場の雰囲気をより暗愚で俗気なるものにしていた。