五輪にまとわりつく「疑惑」を吹き飛ばす平野の奮闘と「7位入賞」の快挙
それでも当時の平野選手はそんな不穏な空気を払拭するかのように3回目で再びトリプルコーク1440を決め、96.00点で逆転金メダルをつかんだ。抗議文でも、ジェスチャーでもない。一本の滑りで審判を黙らせた。理不尽に見える出来事を、怒りで終わらせない。怒りを燃料にして、次の滑走で「答え」を出す。これが4年前の北京で見せた王者の“姿勢”だった。
2022年2月の北京冬季五輪・男子ハーフパイプで超大技の「トリプルコーク1440」を完璧に決め、スノーボード全種目を通じて日本選手初の金メダルを獲得した平野歩夢(写真:共同通信社)
ちなみに採点への不信が連鎖する怖さは、競技間で感染する点だ。冒頭の今大会男子モーグルでは、堀島の83.44点が銅で、上位2人が83.71点(ミカエル・キングズベリーとクーパー・ウッズ)。数字だけ見れば紙一重だが、どこで差がついたのかが腹落ちしないと、「国や勢力図が影響したのでは」という短絡的発想に流れやすい。
そしてアイスダンスでも、チョック選手、ベーツ選手の米国ペアが大本命でノーミスだったにもかかわらず銀に終わり、特定の審判の採点が「外れ値」だと追及されている。こうした疑念が次々と発生すれば、観客は次の競技でも点数を疑うようになる。
だからこそ4年前の北京で疑惑の採点を自身の滑りで覆し、金メダルに輝いた経験を持つ平野選手が今大会において示した「大健闘」の意味は計り知れないほどに大きい。誰もが「出場不可能」と思い込んでいた重傷の逆境を跳ね返し、見事に7位入賞の「快挙」を果たしたのだ。「疑惑の採点」など黒い話題にさいなまれる五輪の舞台で平野選手の「気迫」と「根性」が世界に向け、あらためてスポーツの原点に立ち返る姿勢を映し出したからである。
勝者だけが五輪の物語ではない。疑いが渦巻く時代だからこそ、なおさら「舞台に立つ」という行為が、競技の信用を支える。平野選手の86.50点は確かにメダルには届かなかった。とはいえ、この点数は同時に昨今何かとさまざまな利権や威信が絡みがちな「競技の祭典」が、本来のスポーツの姿を取り戻すための「芯」を守った数字でもあったと言えるだろう。



