「社会的情動コントロール」としての非認知能力
小学1年生にも実施し高い達成率を示す、このような算数の教え方は「AI以降の義務教育」教程として、際立った特徴を持っています。
それは「情動」と紐づけられた論理、数理という特徴です。
子供たち、あるいはそれを指導する東京大学生たちなどにも挙手でアンケートを取ってみると、兄弟姉妹の間で「分配」を巡って、争いになった経験を持つ人が9割方を占めます。
だいたい、兄弟姉妹の小さい方が3歳程度になると、「お兄ちゃんより小さい」とか「お姉ちゃんの方が多くてずるい」とか、文句を言うようになるそうです。
これはつまり、いわゆる「第1反抗期」を迎えた子供には、こうした数量と平等の概念が備わっていることを示しています。
今日の脳神経科学の観点からみて、学齢に達した子供たち(6~7歳児)は、この時期を乗り越えて分別をもって平等な分配などを思料できるようになっています。
ですから、小学1年生に「平等な分配」から割り算を教えることは、ニューラルサイエンスの観点からも合理的で筋道が通っているわけです。
翻って、80年前の「教育基本法」「学校教育法」に準拠して原形が作られた「学習指導要領」は、脳科学の知見がまだほとんどなかった戦後、政治的な理由で定められました。
また、1950年代の児童心理学を参考として作られ一世を風靡した、遠山啓氏や(私が心から尊敬する)銀林浩先生たちの「水道方式」算数教授法も、今日の観点からすると非合理かつ迂遠な側面を指摘せざるを得ないものとなっています。
2015年以来、日本と欧州の専門家を糾合して建設しているSTREAMM教材は、ようやく日本国内でもモニター校で児童生徒への実施が本格化してきたばかりです。
しかし、この教材は「平等でないとおかしい!」という強い情動の脳修飾を前提としており、そうした演算は、大規模言語モデルを使った現在のAIではまだ実現できていません。
つまり、人間にしかできない固有の知の在り方に立脚して数理を教える、そのひな形として、人類史全体のなかでも黎明期というべき紀元前2000年頃のエジプト数学、今から約4000年前の先人の叡智を直接応用しようというのが、グローバルな次世代教育を考えるSTREAMMの基本的な考え方にほかなりません。
労働経済学者ジェームズ・へックマンの主張する「非認知能力」は、OECD(経済協力開発機構)によってより一般的な「社会的情動スキル」として指標化されています。
こうした能力と算数の計算という典型的な「認知能力」が結びつき、一体化した形で、古代エジプトの先達は人類の数理思想を育んできました。それを直接応用しようというわけです。
今日の日本の教育で最も必要とされる一つに、単一の尺度でヒトを図るのではなく、多様性(ダイバーシティ)に即した多元的な評価尺の確立が求められており、筆者も政府ならびに教科書・参考書版元数社と関連のプロジェクトを進めています。
今回は、そうした中から最も新しい具体例をご紹介しました。






