ボット掃除で消えた排外主義的な言説
最後に、公職選挙法とSNS・ネット対策について触れておきたいと思います。今回の選挙戦では、ボット対策を相当に進めてきました。前回の参院選で猛威を振るった排外主義的な言説を煽っていたアカウントが軒並みBANされ、争点としての外国人問題はどの調査でも7位か8位に沈みました。
ということは、前回あれだけ盛り上がった争点を煽っていたのは誰だったのかという話にもなるのですが、それはさておき、ボット掃除の効果自体はあったと言えます。
しかし、これは諸刃の剣でもありました。結果として、ネット空間の浄化が相対的に野党陣営よりも自民党に有利に作用した面は否めません。ネットでの煽動が止まれば、組織票と知名度で勝る与党候補が浮くのは当然の帰結です。特定の政治勢力に有利に働く浄化というのは、手段として正しくとも結果としては歪みを生みます。
選挙終盤、自民党のネット広告の視聴が1億回を超えたなどの不自然さを指摘する声はありましたが、種明かしをすると広告費で言えば千万ちょっとしか使っておらず、実際には視聴回数は約5秒以上で1カウント、広告は30秒尺フル視聴しないと費用が発生しないため、高市さんの熱弁広告を見て途中でタブ閉じたyoutube閲覧者がそれだけいたというだけの話であります。
やはり、場当たり的なボット掃除ではなく、包括的な政治言論に対するデマや誹謗中傷も含めたネット規制の枠組みが必要ではないでしょうか。個人的には、政治情報を発信する者に対するKYC(本人確認)の義務化が急務だと考えています。
加えて、ファクトチェック体制の制度的な整備、そして発信者情報の明確な開示を前提とする法改正が不可欠です。誰が、どのような立場で、どのような根拠に基づいて政治的な主張を発信しているのかが可視化されなければ、有権者はデマと事実の区別すらつきません。
プラットフォーム事業者の自主規制に委ねる民間主導のアプローチでは、おそらくこの問題は解決しないでしょう。プラットフォーム側にはビジネス上のインセンティブがあり、炎上や煽動がエンゲージメントを生む構造がある以上、自主的な浄化には限界があります。
選挙のたびにネット上で繰り返されるデマや煽動を放置し続ければ、民主主義そのものの信頼性が毀損されていきます。有権者が正確な情報に基づいて投票判断ができる環境を整えることは、与野党の立場を超えて、いますぐ取り組むべき喫緊の課題です。
ネットが選挙の主戦場になったいま、そのルール整備なくして健全な民主主義は維持できないと申し上げて、本稿の結びとさせていただきます。
山本 一郎(やまもと・いちろう)
個人投資家、作家
1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し、『ネットビジネスの終わり(Voice select)』『情報革命バブルの崩壊 (文春新書)』『ズレずに生き抜く 仕事も結婚も人生も、パフォーマンスを上げる自己改革』など著書多数。
Twitter:@Ichiro_leadoff
『ネットビジネスの終わり』(Voice select)
『情報革命バブルの崩壊』 (文春新書)
『ズレずに生き抜く 仕事も結婚も人生も、パフォーマンスを上げる自己改革』(文藝春秋)