キャンディーズの曲の大ヒットが気象庁発表の契機に?

 「春一番」が一般に広がったのは、1950年代からと言われています。

 気象用語としてメディアに初登場したのは1956年2月7日。新聞やラジオなどの掲載用として日本気象協会が毎日配信していた天気の解説記事の中で大荒れを予測し、「いわゆる“春一番”である!」と記されました。さらに1962年2月11日の朝日新聞夕刊は天気欄で「これが今年の春風一号、これを地方の漁師たちは春一番と呼ぶ」と記述。翌年1963年2月15日の同紙朝刊は、日本列島を襲った悪天候について「この強い南風は『春一番』と名付けられているが……」「『春一番』の突風がどんな災害をもたらすか。昨年の例をみると……」と報道しました。

 これ以降、「春一番」は春の嵐を表現する言葉として、広く社会に定着したのです。

 もっとも昭和世代にとっての春一番は気象用語ではなく、アイドルグループ・キャンディーズのヒット曲「春一番」(1976年)かもしれません。「雪が溶けて川になって 流れて行きます……もうすぐ春ですね 恋をしてみませんか」という明るい歌詞と、覚えやすい軽やかなメロディー。曲は大ヒットしました。

 実はこれを機に気象庁には春一番に関する問い合わせが殺到したと言われています。気象庁の元予報官で気象予報士の饒村曜さんによると、キャンディーズのヒット曲に合わせて春一番の定義を取り決め。過去の気象データを1951年まで遡って春一番が吹いた日を特定し、平年値を作って春一番に関する情報を発表するようになったそうです。

 近年、気象観測の技術は高度化し、長期予報や短期予報の精度は大きく向上してきました。その一方で、2021年からは「生物季節観測」の対象を大きく削減。アジサイ、ウメ、サクラの開花などの観測を残し、ウグイスの初鳴きやツバメの初見といった項目は対象から外れました(その後、環境省と協力するなどして試行的な観測を継続)。

 春一番は防災も兼ねた重要な気象情報です。それでもサクラの開花やウグイスの初鳴きなどと同様、大切な歳時記でもあります。四季豊かな日本だからこそ、いつまでも大切にしたいものです。

フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。高田氏の近著に『調査報道の戦後史 1945-2025』(旬報社)がある。