「社会的情動スキル」とは何か?
さて、いま記した「非認知能力」という言葉ですが、どうも弊害が多いようです。
にわか参入の業者がおかしな曲解を繰り返すことには本連載で幾度も触れてきました。そこで最近はこれを単独で用いず、OECD(経済協力開発機構)が推進する「社会的情動スキル(Social and Emotional Skills)」 の概念をむしろ強調するようにしています。
社会的情動学習(Social and Emotional Learning=SEL)などという概念や関連組織も立ち上げられ、概念の整理も進んでいます。SELは5つの柱を立てており、それらは以下の通りです。
1 自己認識(Self-Awareness):自分の感情、強み、価値観を認識する力。
2 自己管理(Self-Management):感情や行動を調整し、ストレスに対処する力。
3 社会的認識(Social Awareness):他者の視点や感情を理解し、共感する力。
4 人間関係のスキル(Relationship Skills):健全な人間関係を築き、維持する力。
5 責任ある意思決定(Responsible Decision-Making):自分と他者の幸福を考慮して、倫理的・建設的な選択をする力。
ここでは「感情」「価値観」「共感」「幸福」「倫理」といった、今日のAIすなわち大規模言語システムによる機械学習演算にとって原理的に不可能な項目が正面から取り上げられているのが大きな特徴です。
言うまでもなく、かつてITと共に喧伝され、いまや役割を終えたSTEM(ステム:切り株学習)とかSTEAM(スチーム:湯気学習)など、理系偏重の教育枠組みでは、2022年以降のBOT(ボット)が普及した社会で発生する問題に、およそ対処できないことが背景になっています。
この5つの柱によりたって「社会的情動学習」が目指す4つの目標が掲げられています。
第1は、先ほど来の「非認知的諸能力の育成」。
ペーパーテストで測れる「学力」を超えた「やり抜く力」「共感性」「協調性」など、2000年にノーベル経済学賞を受賞した労働経済学者のジェームズ・ヘックマンが社会の発展に必須不可欠と指摘する「非認知能力」を高めます。
第2は、「問題行動の解消」。
いじめや不登校、DVなどから、「スシローぺろぺろ事件」などに端的に表れているネット上、SNS上などでの問題行動の根絶を目指します。
第3は、流行り言葉になりつつありますが「ウェルビーイングの向上」。
ここでは「幸福感」というより「やりがい」「達成感」、金銭的対価などでは満たされないその行為自身のもつ価値を自ら掴み、人生を豊かにすることを教えます。
そして最後、第4は「生涯、教養力を強化し続けるインセンティブ(動機)の養成」。
社会は常に変化し、イノベーションは新たな事物を提供し続ける。私たちもまた生涯が「勉強」「学習」の連続ですが、それが「いやだ」と思ったら、やっていられるものではありません。
そうではなく、自ら調べ、自ら学ぶ、そのプロセス自体を生きる喜び、楽しみとして身に着け続ける「教養人」「自由人(リベラルアーツの人)」として、自らの足で立ち、歩き続ける「生きる力」を育てること。
この4つのすべてに「指揮教室」ほど即効性をもって、子供に力を与えるものはありません。