アクション・ペインティングの台頭
「アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦」展示風景 東京国立近代美術館 田中敦子《地獄門》1965-69年 国立国際美術館蔵 ©Kanayama Akira and Tanaka Atsuko Association
アクション・ペインティングは、1950年頃にアメリカで生まれた抽象絵画の様式概念。代表的な技法としてジャクソン・ポロックが用いた「ドリッピング」が知られている。床に広げたキャンバスの上に立ち、棒や刷毛を使って絵具を垂らし、作品を制作するというものだ。ちなみにポロックが日本で初めて紹介されたのは1951年の第3回読売アンデパンダン展でのことだが、当初はあまり関心を示されなかった。だが、アンフォルメルが下火になると、一躍、抽象表現の代名詞のように語られ始める。
アンフォルメルもアクション・ペインティングも、どちらもほぼ同時代の抽象絵画を評する用語で、制作の技法や完成した作品の趣も対照的というわけではない。むしろ近しいものがある。だが、「アクション」という言葉から受ける印象通り、アクション・ペインティングには肉体的で英雄的なイメージが強く、男性性と結びつきやすい。結果として、批評対象となるのは男性作家が中心となり、女性美術家の作品は見落とされてしまうようになった。
フェミニズムの視点だけではない
「アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦」展示風景 東京国立近代美術館 芥川(間所)紗織《スフィンクス》1964年 東京国立近代美術館蔵
こうした50年代から60年代にかけての美術動向、特に1958~60年の3年間に焦点を当てて構成されているのが東京国立近代美術館で開幕した「アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦」だ。展覧会タイトルの「アンチ・アクション」は中嶋泉(本展学術協力者、大阪大学大学院人文学研究科准教授)が著書『アンチ・アクション』(2019年)のなかで提唱したもの。展覧会の内容も同書で展開されたジェンダー研究の観点が土台になっている。
中嶋氏は「アンチ・アクション」という言葉についてこう説明している。
「アンチ・アクションとは、日本では男性の美術家を中心に語られてきた「アンフォルメル絵画」や「アクション・ペインティング」に対し、女性の美術家たちの反応や応答、異なる制作による挑戦を論じるために筆者が考案した用語である。この言葉は、第二次世界大戦後に顕著な存在感をみせた女性の画家たちの作品をみる機会をつくり、その作品の意義や意味を再考する試みを可能にするためのフレーミングであり、これによって、アクションや激しい行為を解釈基盤とした従来の戦後美術史のなかで、その意味や価値を知ることが困難になっていた彼女たちの作品を再びみえるものにしようとすることを目指している」(展覧会図録掲載、中嶋泉『「アンチ・アクション」―女性の美術家と日本の戦後抽象画』より)
展覧会では14名の女性美術家による作品約100点が紹介されている。赤穴桂子、芥川(間所)紗織、榎本和子、江見絹子、草間彌生、白髪富士子、多田美波、田中敦子、田中田鶴子、田部光子、福島秀子、宮脇愛子、毛利眞美、山崎つる子。彼女たちは時代の流れの中で“埋もれた時期”がありながらも、自由な実験に挑み、独自の抽象表現に取り組んだ。
展覧会に先駆けて行われた記者発表会で登壇した中嶋泉はこう話した。「フェミニズムの視点から始まった展覧会といえますが、抽象絵画という一見、とらえどころのない作品がどれほど多様な見方が出来るかということを一度ひらくことができる機会になるのではないかと思います。皆様が、新しく今まで見たことのなかった作家、そしてよく知っている作家に再び出会えるような事が起きればいいなと思っています」。
ジェンダーや男女格差について考えることは重要だ。だがその前に、まずは作品の前に立ちたいと思う。
「アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦」
会期:開催中~2026年2月8日(日)
会場:東京国立近代美術館
開館時間:10:00~17:00(金・土曜日は〜20:00) ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日
お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
https://www.momat.go.jp/exhibitions/566



