第14回国連ビジネスと人権フォーラムでも登壇したフォルカー・テュルク国連人権高等弁務官(写真:AP/アフロ)
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(高橋 夏実:オウルズコンサルティンググループ)

 企業活動における人権尊重の取り組みについて議論する世界最大規模の国際会議「第14回国連ビジネスと人権フォーラム(14th United Nations Forum on Business and Human Rights)」が、2025年11月24日〜26日の3日間、スイス・ジュネーブの国連欧州本部で開催された。国連「ビジネスと人権に関する指導原則(以下、指導原則)」が採択された翌年の2012年から毎年続く国際的な議論の場である。

 参加者は現地・オンラインを合わせて過去最多の約4650人を記録。うち約3割を企業が占めた。ビジネスからの注目も年々高まっている。

 一方で今年の会場の熱量は、昨年と比較するとどこか抑制的で緊張感が漂っていた。昨年は、採択されたばかりのEU CSDDD(企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令)への期待感も相まって、会場全体が熱気に満ちていた。ところが、今年はセッション数や登壇者数が大幅に減少し、参加者間での交流機会も限られた。

 背景の一つは国連の財政難だ。今年は米国を筆頭に、英国、フィンランド、フランスなど主要ドナー国が拠出金を大幅に削減し、国連全体の予算は約9000万ドル(約135億円)の不足と報道されている。今年の人権フォーラムの開催規模も縮小となった。

 参加者間でも「国連の弱体化」への懸念が繰り返し囁かれ、この現実が議論の切迫感を高めていた。またEUの人権関連のルールの簡素化の流れも、人権分野の「後退」の印象を強めていた。

 本稿は、フォーラムに現地参加した筆者が、セッションで交わされた議論や会場の空気感を含め、速報として報告するものである。

複合危機時代、人権は「サバイバルモード」に

 今年のテーマは“Accelerating action on business and human rights amidst crises and transformations(危機と変革の中で、ビジネスと人権の取り組みをどう前に進めるか)”だった。

 会議の冒頭、フォルカー・テュルク国連人権高等弁務官は、“Human rights is on its knees and on survival mode(人権はいま、支えを失い、助けを求めざるを得ないほど追い詰められ、「サバイバルモード」にある)”と述べ、現在の人権状況について痛烈な危機感を表明した。日本にいると実感しにくいが、テュルク氏がここまで強い表現を用いざるを得ないほど世界情勢は危機的状況にある。

 議論の中心は「複合危機(Polycrisis)」という概念だ。ロシア・ウクライナ情勢やイスラエル・ガザ等での紛争に伴う地政学的緊張、気候災害の激甚化や、倫理規範が未整備のまま急加速するAI等の技術革新、反DEI・反ESG等の揺り戻しと社会分断等の危機が同時進行している。一つの危機への対応が別問題を悪化させかねず、世界全体の脆弱性の高まりを直視しどう行動を加速させるかが、フォーラムの根幹の問いとなった。