「存立危機事態」、法律ではどう規定?
では、「存立危機事態」とは、どのような状況を指すのでしょうか。
2015年に成立した安全保障関連法は、日本が他国などから攻撃された場合、自衛隊の運用などを通じてどのように国民の生命・財産を守るのかという基本的枠組みを設けました。そのなかでは、対処すべき事態の深刻度や状況に応じた段階が示されています。
1つは「武力攻撃事態」で、実際に武力攻撃が発生してしまった状況、またはその危険が差し迫っている状況を指します。政府は主に
① 航空機や艦艇を使った上陸・着陸による敵部隊の侵攻
② 弾道ミサイルによる攻撃
③ ゲリラや特殊部隊による攻撃
④ 航空機による地上の攻撃
という4類型を想定。それらの侵攻・攻撃に対しては、日本が個別的自衛権を発動し、自衛隊が武力によって対処するとしています。同時に国民は、国民保護法の規定に基づき、主に自治体の誘導によって避難することになります。
2つ目が「武力攻撃予測事態」です。この段階では、武力攻撃そのものはまだ発生しておらず、「武力攻撃事態」には至っていないものの、事態が非常に緊迫し、近い将来に武力攻撃が起こる可能性が高いと予測される状況を指します。この段階でも、国民保護法に基づき、国民は安全な場所へ避難誘導されます。
一方、上記2つの武力攻撃には該当しないものの、武力攻撃に準ずる手段を用いて多数の人を殺傷する行為が発生したケース、または、そうした行為が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った場合には「緊急対処事態」が認定されます。これは、国家として緊急に対処することが必要な事態を指しており、後日、武力攻撃事態と認定されるケースも含まれています。
具体的には原子力発電所への攻撃、石油コンビナート・可燃性ガス貯蔵施設などの爆破、危険物積載船などへの攻撃、駅や空港・大規模集客施設などの爆破――といった事態が想定されています。それらのケースでは、生物兵器や自爆テロ、ダーティボム(放射性物質の拡散を目的とした爆弾)などが使用されるだろうとしています。
上記で示したケースは、いずれも日本の国土や国民、その財産が攻撃された場合を想定したものです。自衛隊を出動させる根拠は、どの国も持っている反撃の権利(個別的自衛権)。日本政府も戦争放棄を定めた日本国憲法も個別的自衛権は放棄していない、との姿勢を堅持してきました。したがって、個別的自衛権の発動である「武力攻撃事態」「武力攻撃予測事態」が国際的な大議論になることもありませんでした。
これに対し、存立危機事態は集団的自衛権に基づく枠組みであり、「武力攻撃事態」とは大きな違いがあります。