記者会見でトランプが見せた気遣い

「為替問題は、専門家である財務相同士で議論することになりました」。

 安倍は2月10日の首脳会談後、ホワイトハウス内での記者会見でそう切り出した。

 トランプは黙って聞いていたが、自らの発言の番になると「自分は各国に対して通貨切り下げへの不満をずっと言ってきた。極めて短期間で、米国にとって公平な条件を取り戻す。貿易赤字の削減には、それが唯一の道だ」と言い切った。

 ただ、その場で日本を名指しするのは避け、安倍の面前で円安政策を直接批判することはしなかった。

 安倍とトランプは首脳会談が終わると、大統領専用機「エアフォースワン」に乗ってトランプが別荘を持つフロリダ州パームビーチへと向かった。

 翌朝、トランプが保有するゴルフ場に出かけて初めて首脳同士でプレーした。

 その後も繰り返される安倍とトランプのゴルフ外交の始まりだった。

2017年2月11日、首脳会談翌日にゴルフを楽しむ安倍元首相とトランプ大統領(写真:ZUMA Press/アフロ)

 1ドル=111円台だった円相場は日米首脳会談後に114円台へと円安が進んだ。

 安倍は円高によるアベノミクスの崩壊という最悪のシナリオを全力で回避した。

後編「トランプ政権が日本を追い詰めた3年〜ムニューシンの為替問題への執念と自動車関税をめぐる攻防」へ続く