二人の関係を深めた「金色のドライバー」

 安倍はトランプの懐に飛び込んで既に親密な関係を築いていた。

 大統領選直後の16年11月17日、ニューヨーク市マンハッタンのトランプタワーに出向いて次期大統領との異例の会談に臨んだ。

 主要国の首脳で真っ先にトランプに会ったのが安倍だった。

 国際政治の経験がないトランプは中国や北朝鮮など安全保障のリスクを安倍に問うた。

 安倍は1時間半の会談の最後に、本間ゴルフ製の金色のドライバーを贈った。

 安倍が凶弾に倒れる22年まで、トランプにとって安倍は最も心を許せる外国首脳となった。

 安倍は貿易問題でも、米副大統領のマイク・ペンスと財務相兼副総理の麻生太郎による「日米経済対話」の創設を提案した。

 政権発足から間もないトランプはまだ対日経済政策で具体的な青写真を描いておらず、安倍の提案をそのまま了承した。

 ペンスは直前までインディアナ州知事を務めていた。同地にはトヨタ自動車の生産拠点があり、ペンスは日本企業の対米投資に理解があった。

2017年から2021年までのトランプ政権で米副大統領を務めたマイク・ペンス(写真:AP/アフロ)

 共和党保守派の筆頭格でありながらペンスは主流派の下院議長、ポール・ライアンと親しく、TPPなど自由貿易の推進論者だった。

 安倍官邸は、ペンスがトランプ政権内で最も合理的に交渉ができる人物だとみていた。

 安倍がナンバー2による経済協議の枠組みを提案したもう一つの理由は、通商問題と安全保障を切り離すためだった。

 トランプはその日の首脳会談でも「日本の防衛費の負担は米国にとって不公平だ。私の政権ではその是正をなし遂げたい」と話していた。