たぶん負けてるかもしれんなと思って帰ったら、これが勝っていたのだ。

 山本由伸が9回、10回と抑えたのである(山本の獅子奮迅の活躍は特筆に値する。かれは今シリーズのMVPに輝いた)。

 11回表、2死からウィル・スミスがレフトへの勝ち越しホームランを打つ。

 が11回裏、ノーアウトでゲレーロJr.が2塁打。送りバントで1死3塁。バーガー、フォアボールで1死1、3塁。

 ここで4番カーク。この男がドカベンみたいな体をして打ちそうなのだ。長打が出れば一気にドジャースのサヨナラ負けだが、南無三、バットが折れ、思惑通りのショートゴロ。

 ここでベッツが魅せた。

 ゴロを華麗にさばき、そのまま2塁ベースを踏むや、塁上で小さくジャンプした体が、慣性の法則でライト側に流れそうになる中、転瞬、1塁へ送球した。

 ボールが左右どちらかに逸れて送球ミスになってもおかしくなかったのに、見事フリーマンのミットに収まり、ゲッツーで歓喜の試合終了。

 スローモーションで見ると、ベッツが体の流れに負けないように、注意深く送球をしていることがわかる。

第7戦、鮮やかな送球を見せたショートのムーキー・ベッツ(写真:UPI/アフロ)

 どの試合も息詰まる激闘だった。

 振り返ってみれば、ドジャースにわずかながらツキがあったし、運が味方したといわざるをえない。

 ブルージェイズの主砲ゲレーロJr.は、第7戦後、悔し涙に暮れたが、数か月後、あるいは数年後にこのシリーズを振り返ってみたとき、もはや勝敗は関係なく、あれはすごい戦いだった、あれほど野球の楽しさを感じたことはなかった、という感慨にいたるにちがいない。

 わたしたちファンもまた、まあ結果、ドジャースが勝ったんだけどな、といいつつも、あのシリーズほど、ハラハラドキドキして、野球の醍醐味を味わったことはなかった、と思い出すことになるのではないか。