レアアース規制「1年延期」は一部、米国の勝手な解釈

——そうした前提を踏まえて、改めて今回の米中首脳会談はどう見ていますか?

細川:中国側はレアアースを外交カードとして使い、米国側を揺さぶり優位に立っています。今回、レアアースの輸出規制については、アメリカ側の要求に合わせて中国が一部規制を1年間凍結すると発表しました。

 トランプ政権は各国とレアアース協力を進め、いわば中国への牽制球を投げていましたが、実際にはすぐに代替供給源を確保して輸入を増やせるわけではありません。南鳥島開発も中長期戦略であり、短期的な効果は期待できません。今後しばらくは先端半導体の規制緩和を狙った中国の戦略に翻弄される展開になると予想しています。

 レアアースの規制は米国向けだけでなく、日本やヨーロッパも対象で、企業の現場では大混乱が起きます。在庫が2〜3カ月しかもたない企業もあります。どんな米中合意があれ、日本企業も重大な影響を受けることになります。

レアアース争奪戦が激しさを増している。トランプ米大統領(左)と中国の習近平国家主席(写真:ロイター/アフロ)レアアース争奪戦が激しさを増している。トランプ米大統領(左)と中国の習近平国家主席(写真:ロイター/アフロ)

——報道では「レアアース規制が1年延期された」と伝えられています。

細川:それは誤解です。そもそも、レアアースの規制は2段階あります。まず4月4日、中国は7種のレアアースについて輸出規制を打ち出しました。これは米国による対中関税強化に対する事実上の報復措置で、日本企業も大きな影響を受けています。

 次に10月9日に規制対象が5種追加され、再輸出規制も導入されました。この再輸出規制が極めて厳しいものです。

 例えば、中国から輸入したレアアースが製品中に0.1%でも含まれていれば、それを輸出する際に中国政府の許可が必要になります。つまり、微量であっても中国産レアアースや技術を使えば、中国政府の事前許可がなければ輸出できない。これにより、日本企業の輸出活動に深刻な支障が生じて、現場では大問題になっていました。

——これらの規制が1年延期ということになったのですか。

細川:延期されたのは10月9日のレアアース規制だけです。この中国の規制に対してトランプ氏が「関税100%をかけるぞ」と反応したとなっていますが、実際には、米国が9月29日に発表した「エンティティリスト」の拡大が中国側の逆鱗に触れて10月9日の規制になったのが背景です。

 この措置では、禁輸対象企業の子会社(株式50%以上を保有)も制裁対象に加えられました。これは中国側の抜け道を封じる動きで、中国はこれに対する報復として10月9日の規制を発表したという経緯があります。その後、米国側が「今回のエンティティリスト強化も1年延期する」と発表したことを受け、中国も10月9日の規制を1年停止する方針を示しました。

 アメリカ側は10月30日発表のファクトシートで、4月の規制について「包括許可(ジェネラルライセンス)を適用し、(レアアース規制の)事実上撤廃に近い」と表明しました。しかし、これはアメリカの一方的な理解に過ぎません。現状では4月分の規制は依然として維持されています。報道も全体を「1年延期」とまとめて理解しているものが多いですが、言葉足らずで間違った印象を与えています。