60兆円は関心案件リスト、日本企業は市場開拓チャンス

——では今回の60兆円分の関心案件リストはどう捉えるべきでしょうか。

細川:これは「投資確定リスト」ではなく、あくまでも日本企業が関心のある案件を積み上げたものです。日本企業が投資する案件もあれば、サプライヤーとして米国企業に製品やサービスを販売する案件も含まれています。つまり、全く意味が異なる投資額と販売額を単純に足し合わせて60兆円にしているので、厳密に経済的意味はあまりありません。

 背景には、ラトニック商務長官がトランプ大統領に成果をアピールしたいという意図があります。トランプ政権ではベッセント財務長官、ラトニック商務長官、グリアUSTR(米通商代表部)代表の3人が、互いにトランプ大統領への功績を競い合っています。80兆円枠はラトニック氏にとって自分の成果として示すアピール材料なんです。

 そのため、JBICによる正式審査の前段階で、関心が示されている案件を寄せ集めて提示したというのが実態です。個別の日本企業との間での覚書もありましたが、中身は精神論に近く、具体的な投資を約束するものではなく、儀式にすぎません。

高市・トランプ会談は「及第点以上」(提供:首相官邸/UPI/アフロ)

——日本企業が部品を供給するといった案件も含まれるのであれば、むしろビジネスチャンスにもなり得るのでは。

細川:その通りで、米国への市場開拓ツールとして活用できると考えた日本企業は、すでに動き始めています。日本側はとしては、米国から問題案件を押し付けられる前に、日本企業にメリットのある良い案件で枠を埋めるという戦略を取るでしょう。トランプ大統領は脅しとして関税引き上げを口にするでしょうが、日本側としては案件が着実に動いている姿を示していく必要があるでしょう。

 もちろん、アラスカのLNG案件のように米国側から持ち込まれるものもあると思います。ただ採算性のない案件が入ってこないように、国際協力銀行が日本の法律に基づいて審査することで一定の歯止めとしていますが、これが機能するかでしょう。