その視点でみれば、高市首相がこのほど着任し、厳しい対中姿勢を持つトランプ米大統領と日米首脳会談を行うのを横目に発信を控えめにしてきた薛剣総領事だが、その後の米中首脳会談で米国の対中追加関税の引き下げと、中国のレアアース(希土類)対米禁輸措置の1年間停止によって米中関係も当面の小康状態を得たため、過激発信の封印を解いて一気に高市氏攻撃に出たとも考えられる。

2024年10月、大阪市内のイベント会場で筆者(左)の突撃取材に応じた薛剣氏(筆者撮影)

 一方で、前任者の長期不在(長年遺棄化学兵器に絡む対日賠償金利権に関与してきたことが発覚し逮捕・投獄されたとされている)を受けて不定期人事で大阪総領事に着任した薛剣氏も、中国要人が多数来日した大阪関西万博を無事に終え、そろそろ「帰任が近い」とも噂されており、11月21日に広島で開催予定の「西日本地区中日友好交流大会を花道に離任するのではないか」というのが大方の観測だ。

複数のスタッフが関わっていると目されていた薛剣氏のX投稿だが

 となれば帰国後の本国での次のポストがどうなるのか気になるところ。数々の「戦狼」発信が評価されることを期待するあまり、今回の「首脳殺害予告」発信となったのかもしれないが、支持率8割を超す首脳への度を越した暴言に対し、日本社会の批判の嵐は想像以上に大きかったようだ。

 投稿からほどなくしての削除は、当初から短時間だけ公開して日本社会に対する言論的揺さぶりを目指した、とも考えられるが、あまりに悪目立ちしたと自覚して、自分で投稿を削除した可能性、あるいは日本政府の抗議などをもとに東京の大使館、もしくは本国からの「やりすぎ」をとがめられた可能性も推測される。

 もうひとつ。1日70~80件にもおよぶ薛剣氏のX投稿は、本人だけでなく、いわゆる総領事館内の「言論戦チーム」で行っているとみられており、問題のコメントが投稿された8日は土曜日だったこともあって、チームの発信が先走り、薛氏が精査することができないままに拡散されてしまった可能性もある。

 この場合、チームの担当者が、薛氏に良かれと善意で発信したケースだけでなく、離任を目前の薛氏の足を引っ張る目的で、意図して超過激発言を仕掛けた可能性も考えられる。つまり「総領事館内の不和、内紛が表面化した」という見方だ。

 果たしてどちらが正解なのか。薛氏の離任後のポストの有無や、その内容が見えた段階でそれは明らかになり、同時に習近平指導部の高市政権へのメッセージにもなると言えそうだ。

【吉村剛史】(よしむら・たけし)
日本大学法学部卒後、1990年、産経新聞社に入社。阪神支局を初任地に、大阪、東京両本社社会部で事件、行政、皇室などを担当。夕刊フジ関西総局担当時の2006年~2007年、台湾大学に社費留学。2011年、東京本社外信部を経て同年6月から、2014年5月まで台北支局長。帰任後、日本大学大学院総合社会情報研究科博士課程前期を修了。修士(国際情報)。岡山支局長、広島総局長、編集委員などを経て2019年末に退職。以後フリーに。主に在日外国人社会や中国、台湾問題などをテーマに取材。台湾2025外交部フェロー。元東海大学海洋学部非常勤講師。台湾発「関鍵評論網」(The News Lens)日本版編集長。著書に『アジア血風録』(MdN新書、2021)。共著に『命の重さ取材して―神戸・児童連続殺傷事件』(産経新聞ニュースサービス、1997)『教育再興』(産経新聞出版、1999)、『ブランドはなぜ墜ちたか―雪印、そごう、三菱自動車事件の深層』(角川文庫、2002)、学術論文に『新聞報道から読み解く馬英九政権の対日、両岸政策-日台民間漁協取り決めを中心に』(2016)など。日本記者クラブ会員、日本外国特派員協会、日本ペンクラブ、日本外国特派員協会会員。二等無人航空機操縦士。動画『吉村剛史のアジア新聞録』『話し台湾・行き台湾』、ラジオ成田『臺灣・日本RadioExpress』等でMC、コメンテーターを担当。