『ちょっとだけエスパー』(テレビ朝日)
2位は『ちょっとだけエスパー』。脚本は野木亜紀子氏が書いている。その名前だけで視聴者を引き寄せられる数少ない脚本家の1人である。
野木氏にとって初のSF作品。『笑ゥせぇるすまん』などを描いた藤子不二雄Ⓐさんの作品を思わせる含蓄に富んだ物語である。
主人公・文太(大泉洋)は47歳。会社をクビになってしまった。10年間で300万円の横領をしていたことがバレてしまったからだ。
テレビ朝日『ちょっとだけエスパー』の大泉洋と宮﨑あおい(写真:産経新聞社)
家族にも逃げられた。金もなかった。次の就職先も見つからず、人生に絶望していた。そんなとき、ノナマーレ(イタリア語で「愛さない」)という奇妙な会社に拾われる。
社長の兆(岡田将生)によると、会社の事業目的は「世界を救うこと」。イノベーション(革新)が必要な人を社員にしているという。
兆は文太にカプセル剤を飲むように指示する。それを飲んだ文太は、手で触れた相手の心が読めるようになる。ちょっとだけエスパーになった。
同僚は3人。みんな文太と同じく、ちょっとだけエスパーだ。文太たちはその能力を使い、兆から与えられたミッションをこなす。
桜介(ディーン・フジオカ)は触った植物の花を咲かせる花咲か系エスパー。円寂(高畑淳子)は物質を温められる。まるで電子レンジ。ただし、200ワット程度の能力しかないので、対象物がほんのりと暖かくなるくらい。レンチン系エスパーだ。
半蔵(宇野祥平)は動物と話せる。動物を操るような大それたことは出来ないが、頭を下げてお願いすることは出来る。アニマルお願い系エスパーである。
4人は画家の千田守(小久保寿人)を相手にしたときには、彼が贋作師になってしまうのを食い止めた。鼻高々だった。
だが直後に千田は交通事故死してしまう。それを文太たちは知らない。千田の死は兆が望むものだったのか。第2回だった。
ノナマーレには破ってはならないルールがある。まず社名の通り、誰のことも愛してはならない。超能力のことは他言禁止だ。
文太の場合、会社が用意した社宅で四季(宮﨑あおい)という女性と暮らさなくてはならない。もちろん、四季を愛することは厳禁だ。超能力のことも話せない。
四季は愛する夫が目の前で事故死したショックから、記憶を失っていた。文太を本当の夫だと思い込んでいる。
「誰でもいいのよ……」(円寂)
四季は文太に横領の過去があることを知ると、「私も子どものころ、お母さんの財布から100円盗んだことがあるの」と言った。みんなやることだと慰めてくれたのである。やさしい女性だ。
やがて文太は辛くなるだろう。四季を愛してはならないからだ。
多くの人がそう思っているだろうが、四季が物語のポイントに違いない。文太は禁を破って四季を愛してしまうのではないか。
コメディのように見えて、哲学的な臭いを感じる。ちなみに近年の野木作品の特徴はテーマが深遠なことだ。