遠洋実戦訓練を終え、母港に帰還する中国空母「山東(右)」(2025年6月撮影、写真:新華社/アフロ)
いまから20年前、中国軍は米軍と競争できるレベルではなかった。しかし、習近平氏の国家主席就任後(2013年)に軍事力は驚異的に強化された。特に海軍の艦艇は数のうえでは米軍を上回り、その差はさらに拡大している。
こうした中国軍の増強ぶりは、隣国である日本の安全保障にも大きな影響を及ぼしている。中国軍、とりわけ海軍は日本の一般国民が知らず知らずのうちに日本列島を包囲している。本稿では、中国軍が日本周辺においてどのような活動を行っているのか、元航空自衛官でジャーナリストの宮田敦司氏がレポートする。
中国海軍の空母2隻が同時に太平洋へ進出
2025年5月下旬、中国海軍の空母「遼寧」「山東」の2隻が初めて同時に沖縄と宮古島の間(以下、宮古海峡と記述)を通過して太平洋に進出した。
防衛省の報道資料によると、この2隻の空母は沖縄本島や沖ノ鳥島(東京都)、南鳥島(同)などの近海を航行し、5月25日から6月19日の間に艦載機の発着艦を約1050回行った。
6月7日および8日には、太平洋で活動していた「山東」から発艦したJ-15戦闘機が海上自衛隊のP-3C哨戒機に約45メートルまで接近し、偶発的な衝突を誘発する可能性がある危険な飛行を行った(中国側は日本側が接近したと主張)。
まるで「中国の空から出ていけ」と言わんばかりの行動である。
2025年7月、香港に入港する中国初の国産空母「山東」(写真:ロイター/アフロ)
こうした空母の行動や戦闘機の異常接近は、もちろん計画的に行われたものだろう。このような危険な飛行は現場の判断で出来るものではなく、軍の活動は国家の意思として行われる。衝突事故が発生し海自機が墜落した場合は、確実に外交問題になるからだ。
中国国防省は6月末、「遼寧」と「山東」が実施した訓練について、「太平洋西部海域に出て、互いを相手として実戦的な対抗の訓練をした」と明らかにしている。
7月には、日本の周辺海域で米空母を想定した迎撃訓練が行われたという。米軍役と中国軍に分かれて対抗する形式の訓練で、米空母が採用している航行方法を模倣した動きをしていたことなどから判明した。
これについて日本政府は、中国軍が台湾有事を見据え、米軍接近を阻止する能力の向上を進めていると分析している。
海上自衛隊P-3C哨戒機に約45mまで接近した中国海軍J-15戦闘機。手前は海自機のエンジン(写真:防衛省発表資料より)
海上自衛隊P-3C哨戒機(写真:海上自衛隊発表資料より)
中国はすでに東シナ海の日中中間線付近で天然ガスと石油を採掘すると同時に、海軍力を強化して東シナ海を影響下に置いた。そして今度は、海軍と空軍の戦闘機や爆撃機などを動員し、空母を伴って東シナ海や日本海だけでなく西太平洋へ進出し、影響下に置こうとしているのだ。
2024年10月下旬、南シナ海で2空母編隊演習を実施する「遼寧」と「山東」(写真:新華社/アフロ)
こうした行動はすべて中国の国家戦略に基づいている。