日本にも「Jドーム」が必要では?

 日本に対するミサイルの脅威は、米国以上に、また台湾と同様に切実かつ重大である。

 日本は、米国から見た対等国のロシア、近対等国の中国およびならず者国家の北朝鮮に隣接し、これら周辺国からの「眼前の脅威」に日々曝されているからだ。

 周辺国は近年、多弾頭・機動弾頭を搭載する弾道ミサイルや高速化・長射程化した巡航ミサイル、有人・無人航空機のステルス化・マルチロール化といった能力向上に加え、対艦弾道ミサイル、極超音速滑空兵器(HGV)などを装備している。

 経空脅威は多様化・複雑化・強大化している。

 そのため、日本は、弾道ミサイル防衛(BMD)システムを整備し、イージス艦による上層での迎撃とパトリオットミサイル「PAC-3」による下層での迎撃を、自動警戒管制システム(JADGE)により連携させて効果的に行う多層防衛を基本としている。

 これは、「全般防空」と言われているようで、その防空体制の下、各自衛隊は自らの防衛行動に必要な「自隊防空」の能力を備えている。

 ロシアは、ウクライナの電力網などのインフラを含めたミサイル攻撃を国土全体に及ぼし、長期にわたり過激化させており、ウクライナの防空装備・システムの不足・弱体が同国に深刻な人的・物的被害をもたらしている。

 イランは、イスラエルに対し一挙に約300発のミサイルとドローンによる飽和攻撃を仕掛けたが、イスラエルはアイアンドームのおかげで、幸い被害を局限することができた。

 この世界の現実を直視し、果たして日本は長期の激烈な経空攻撃に耐え得るのか、あるいは数百といった同時ミサイル・ドローンによる飽和攻撃に同時対処できるのか、国土全体に及ぶ攻撃から国民の生命と財産を守れるのか、今一度、現BMDシステムを真剣に検証することが必要である。

 我が国の防空体制は、前掲の通り、全般防空と自隊防空から構成されているようであるが、政経中枢、防衛・産業基盤および自衛隊の作戦行動に必要な能力に限られていると見られている。

 また、航空から宇宙空間へと作戦領域が拡大し、新たな課題となった宇宙戦への取組みは、ようやく緒に就いたばかりである。

 しかし、ウクライナ戦争やイスラエル・ハマス戦争で明らかなように、経空脅威は、一般国民の生活空間や電力、交通、金融などの重要インフラにまで、国際法を無視し不法に及んでいる。

 それらを守るためには、現行の我が国の防空体制では、質量ともに不足しているのは明らかで、いわば「破れ傘」の状態にあるといえよう。

 日本の防空体制は、万全とは言い難いのが現実だ。

 我が国では、米ソ冷戦の真っ只中の1970年代に、全身を針で覆った「ハリネズミ」のような防衛体制が必要だと論じられたことがある。

 ハリネズミは、外敵に襲われると身体を丸めて体表にある「針」を広げ、大きな音を出して外敵から自分の身を守ることから準えたものである。

 ミサイルやドローンが戦争の有力手段として躍り出、その脅威が国土全体に及ぶようになった現在の安全保障環境では、防空における「ハリネズミ防衛論」の必要性・有用性が再認識されたと言わざるを得ない。

 世界の最強軍事大国である米国が「ゴールデンドーム」を積極推進し、また、我が国と同様に中国の脅威に曝されている台湾が「台湾ドーム」を緊急整備するという。

 それらは、我が国自身にも課せられた重大問題であり、決して他人事として傍観するわけにはいかない。

 真に国民の生命と財産、そして重要インフラを守り、国土防衛を全うする覚悟があるならば、米国や台湾が目指す仕組みに類似した最新の防空システムは必須の要件である。

 早急に「日本ドーム(Jドーム)」の構築に着手しなければならないのではないか。