ベトナムのハイフォンにある国際コンテナターミナル。ベトナムはほぼ全品目での関税撤廃を約束したにもかかわらず、ASEANの他の国より高い水準となっている(写真:ロイター/アフロ)
オウルズコンサルティンググループによる「トランプ2.0時代のインド太平洋経済秩序と日本企業への影響」をテーマとした連続対談。第3回は、ASEAN(東南アジア諸国連合)の経済統合や同地域における日本企業の事業活動の分析を専門とする助川成也・国士舘大学政経学部教授と、同社代表取締役CEO・羽生田慶介による対談の概要をお届けする(9月26日実施)。
米国史上では自由貿易がむしろ例外
羽生田慶介(以下、羽生田):第2期トランプ政権(トランプ2.0)は、世界の多くの国に相互関税を課したり、鉄鋼や自動車などを対象とした分野別関税を発動したり、関税措置を濫用しています。日本を含むインド太平洋諸国にとってはこれにいかに対応するかが喫緊の課題となっています。
他方で、これはトランプ政権が「特殊」なのであって、いずれ米国は自由貿易に戻ってくると期待する声もあります。一般的に、経済成長と貿易の間には正の相関関係があり、戦後のGATT(関税貿易一般協定)・WTO(世界貿易機関)体制の下で米国も自由貿易の恩恵を長く受けてきました。米国の自由貿易への回帰の可能性について、どう思われますか。
助川成也氏(以下、助川):2022年にダグラス・A・アーウィン著の『米国通商政策史』(長谷川聰哲監訳、文眞堂)の一部を翻訳する機会がありました。米国は来年、建国250年を迎えますが、この本では建国から第1期トランプ政権発足前までの米国の通商政策の歴史を扱っています。
多くの方が、米国は自由貿易、多国間主義の国というイメージを持っていると思うのですが、著者のアーウィンによれば、それは第2次世界大戦の直前から日本との貿易摩擦が激しくなる前あたりまでで、米国の歴史全体をみれば、自由貿易の時期の方がむしろ例外であったということです。
関税を含めた通商政策は議会の専権事項ですが、今の米国は、共和党・民主党の党派によらず、自由貿易には懐疑的です。米国の保護主義的政策は、トランプ政権の残り3年強で終わるのではなく、長期にわたって続くものと考える必要があると思います。日本企業も、それを前提として長期戦略を立てるべきでしょう。
羽生田:トランプ政権は、米国内の製造業の保護・育成に力を入れています。これがうまくいけば、輸出に目が向き、自由貿易への回帰も考えるかもしれません。ただ、今の米国に製造業を復活させる基盤があるのか疑問です。
生産拠点を作ろうとしても、新たに雇用可能な工場従事者・技術者が不足していることが明らかになりつつあります。「保護主義」といっても、本当の意味で「保護」できているとは思えません。