エヌビディアのフアンCEO(写真:ロイター/アフロ)
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(中島 厚志:エコノミスト)

 今年に入ってから、とりわけ最近2カ月ほど、半導体価格の上昇傾向が鮮明になっている。これまでおおむね3年から4年の単位で繰り返されてきた半導体価格の循環をシリコンサイクルというが、2025年9月末時点の半導体価格は前年比53%の上昇となり、過去の経験からすれば新たなシリコンサイクルが始まったことを想起させる状況である(図1)。

【図1】半導体価格の推移(シリコンサイクル)

(注)半導体価格はDRAMX Spot DDR3 2Gb 256Mx8 1600/1866MHZの価格
(出所)DRAMeXchange

 しかも、シリコンサイクル開始の見方を補強する材料は他にもある。一つは、アメリカの今年4~6月期の知的財産投資が前期比では1999年以来となるプラス3.6%の大幅増となったことである(図2)。

【図2】主要国:知財投資増減率の推移

(注)前期比、実質、季節調整値
(出所)内閣府、Eurostat、米BEA

 知的財産にはソフトウェアやR&D、特許などが含まれ、その投資はイノベーションを推進する原動力となっている。当然、アメリカでの知的財産投資の急拡大の多くは、AIと半導体を組み込んだイノベーションの急速な進展を示唆することになる。

 また、アメリカの輸入動向も注目される。今年4月以降、アメリカの関税大幅引き上げでとりわけ中国からの輸入は急減している。しかし、前年と比べたアメリカの輸入合計額はほとんど減っていない(図3)。

【図3】アメリカ:主要国別輸入増減の推移(前年差)

(注)前年同月差。通関ベース、名目、季節調整値
(出所)米Census Bureau

 その一因には、台湾からの輸入急増がある。アメリカの関税引き上げで、中国からアメリカへの輸出の一部はベトナムなど他国を迂回する輸出に振り替わったとされている。しかし、台湾は中国の迂回輸出の拠点にはなっていない。

 台湾の中心的な対米輸出品が先端半導体であることを踏まえると、アメリカにとって台湾からの輸入増は先端半導体の需要増を意味することになる。