(英エコノミスト誌 2025年9月27日号)
国賓として英国を訪問したドナルド・トランプ大統領に帯同したエヌビディアのジェンスン・フアンCEO(9月18日、写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
総取りする勝者たち
米国株式市場における価値の集中ぶりは驚異的だ。個人への権力集中にも同じことが言える。
市場時価総額上位10社のうち4社――アルファベット、バークシャー・ハザウェイ、メタ、オラクル――は創業者が経営を支配している。
5位につけているテスラは最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏に大量の株式を分け与えている。
時価総額トップのエヌビディアには絶対的な大株主がいない。だが、創業者のジェンスン・フアン氏が30年以上にわたって事業を取り仕切っている。
先日はドナルド・トランプ大統領から「君は天下を取っている」と声を掛けられた。
これは米国で名前をよく耳にする大企業に限った話ではない。
ほとんど無名のプログラマーからヘッジフアンドの運用担当者、著名な作家や歌手に至るまで、その道のスーパースターの影響力と収入が急伸している。
政治家たちは所得階層の最上位1%の人々に注目してきた。だが、労働市場において最も際立つ変化は、それよりも高いレベルで繰り広げられている。
同様に、株式市場のアナリストは個人について考えることにほとんど時間を使っていないが、もっと時間をかけるべきだ。
テクノロジーと文化が相まって、企業ではなく個人がビジネス界の原動力になりつつあるからだ。
シリコンバレーや投資銀行で輝くスーパースターたち
その傾向が最もはっきり分かるのは、大物たちが人工知能(AI)にイチかバチかで取り組んでいるシリコンバレーだ。
2010年代に膨張した中間管理職はもてはやされなくなり、代わってスーパースターAI研究者が引っ張りだこになっている。
トップの100人にはその次の100人よりも指数関数的に高い価値があるとの見方が広がっている。
メタのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は「Chat(チャット)GPT」を作ったオープンAIに追いつくために、腕利きプログラマーに8~9ケタの報酬パッケージを提示したと伝えられている。
そのオープンAIを率いるサム・アルトマン氏は、この業界で画期的なブレークスルーを成し遂げるのは「中規模の一握り」の人々だろうと話している。
テスラのマスク氏はこうしたヒステリックな採用活動を、これまで見たなかで「最もクレージーな人材獲得戦争」だと形容している。
人材獲得戦争はほかの業界でも勃発している。
ヘッジフアンド業界では、スター・ポートフォリオマネージャーをめぐる争いがかつてないほど白熱している。企業の法律顧問はますますフリー・エージェント化している。
投資銀行業界では、取引に携わった投資銀行家の取り分が比較的大きなブティック型投資銀行への手数料配分の割合が、2007~09年の世界金融危機以降に倍増している。
例えば株式を上場している投資銀行のエバーコアは先日、英国の小さな投資銀行ロビー・ウォーショーに1億9600万ドルを支払うことで合意した。