撮影/松田麻樹(以下同)
(岡本ジュン:ライター)
近年、金継ぎは単なる伝統工芸の枠を超え、サステナブルなライフスタイルの象徴として世界中から注目を集めている。なぜこれほどまでに金継ぎが世界で注目されるようになったのだろうか。そして、ビジネスやデザインの分野にまで広がった背景には、どのような要因があったのだろうか。
国や文化、宗教といった境界を越えて、多くの人々の心を動かす金継ぎ。
その魅力を探るべく、美術家であり金継ぎの活動を世界に普及させているナカムラクニオさんに話を聞きながら、世界が注目する“Kintsugi”の奥深い世界を紐解いていく。
Kintsugiのきっかけはロックバンド?
そもそも海外で金継ぎが、Kintsugiとして広まるきっかけはあったのだろうか? ナカムラさんはこう振り返る。
「もう10年ほど前のことですが、アメリカのロックバンド『デス・キャブ・フォー・キューティー』が『Kintsugi』というタイトルのアルバムを出したんです。ロックバンドが突然“Kintsugi”という言葉を使った意外性もあって、それが大きな話題になりました。そのヒットが火付け役となり、アメリカで“Kintsugi”が流行しはじめた。それが世界へと広がるきっかけになったと思います」
漆で接着したあとに、何度も漆を重ねて補修する
ここで少し、金継ぎとは具体的にどのような技法なのか。改めてその基本をご紹介する。
金継ぎは、大きく分けて「接着」「補修」「仕上げ」の3つの工程に分けられる。まず「接着」は、割れた器の破片を、漆を接着剤として組み合わせていくものだ。欠けている部分には、漆に小麦粉を混ぜた麦漆(むぎうるし)や、漆と砥の粉という、石を粉末状にしたものを混ぜた錆漆(さびうるし)が用いられる。接着面はマスキングテープなどでしっかりと固定し、完全に乾くまでしばらく置かれる。
次に「補修」では、欠けや隙間を錆漆で埋め、やすりで丁寧に形を整える。仕上がりの美しさを左右する重要な工程であり、やすりではなく、とくさなどの伝統的な道具が使われることもある。
最後の「仕上げ」は、研磨した部分に漆を塗り、金粉や銀粉を蒔いて装飾する。金粉が定着するよう、真綿で軽く押さえ、最後は鯛の牙などで磨き上げて光沢を出す。こうして、壊れた器は新たな表情を得て生まれ変わるのだ。
ナカムラさんの金継ぎの道具。必要なら筆や道具を自作することもある
金継ぎの技法は多岐にわたる。金粉の代わりに銀や錫、プラチナ粉を用いることもあれば、「共直し」と呼ばれる傷を隠す技法、「蒔絵直し」という装飾を加える方法、金属の留め具を使う「鎹(かすがい)継ぎ」、さらには貝を埋め込む「螺鈿(らでん)継ぎ」などもある。